2019年1月の記事一覧

グループ 公的統計の重要さ

公的統計は合理的な意思決定を行うための基盤となる国民にとって重要な情報です.米国や英国でも統計が政策の客観的な基礎になるので,統計調査を政府の管理下に置き重視していますが,日本でも同様です.統計法という法律(2007年に大幅な改正)は,国勢調査などの基幹統計調査での報告義務,かたり調査の禁止,地方公共団体による事務の実施などが決められています.しかし,政府の統計を監督する統計委員会は、総務省に置かれているので,政府からの独立性が懸念されます.
麻生太郎副総理・財務相は2015年10月の経済財政諮問会議(議長・安倍首相)で,「毎月勤労統計については,企業サンプルの入れ替え時には変動があるということもよく指摘されている」と発言しました.これはもちろん誤りではないのですが,2018年のサンプル入れ替えのときに,偏ったサンプリングによる数値上昇への忖度につながった可能性はあります.

統計調査は全数調査ではなく,サンプリングした集団に対して実施されます.このサンプル集団が元の集団の性質を代表しているとみなせるのは,サンプリングが完全にランダムであることが前提です.しかし現実には完全にランダムは不可能です.調査される側の意識も,自分が正規分布の1点と思うと気が進まないし,個人情報を出すのを嫌うので,予定したサンプル数がなかなか集まらない.結局,何らかの偏りがあるサンプル集合に,適切な補正をし現実に近づけます.このように,サンプル集合の採り方により,得られる統計数値は色々に変わり得ますが,もし,意図的な偏りも加わると処置なしです.数値への信頼はほどほどにしましょう.しかし,数値化されると独り歩きし都合の良い数値が政策に採用される懸念があります.

こうして考えると,問題は統計学や数学以前の所にあり,もともと一つの数値で表すことのできない社会の複雑な状態を,おおざっぱでも正しく把握する常識感覚が必要になります.庶民の実感する豊かさと,統計数値に乖離があるとすれば,サンプル集団は,社会状態を正しく代表していないのです.

東京都における「500人以上規模の事業所」については,全数調査の1,464事業所(平成30年)でなければいけないのに,概ね3分の1の491事業所のサンプリングでした(2004年1月から東京都では約3分の1のサンプリングをしていました).
平成16年以降,厚生労働省から東京都に対し,厚生労働省が抽出した事業所名簿を送付し,当該名簿に基づき抽出調査を行うこととしていました.このサンプリングはランダムだったのでしょうか?

大企業と中小企業の比率などを考慮して,補正により現実に近づけようと試みたようですが,首尾一貫した定義のサンプル集団ではないので,アベノミクスの成果と言われる賃金伸び率の数値比較があてにならなくなりました.毎年の伸び率比較には,同一定義のドメインで統計をとらなければ意味がありません.
日刊ベリタに掲載

補足)サンプル集合の大きさ(抽出率)と誤差

母集団の全数検査すれば正確な数値が得られますが,現実には実施不可能なのでランダムサンプリングによりサンプル集合を作ります.しかし,サンプル集合の大きさが小さいほど,誤差はさらに大きくなりますので,ある程度のサンプル数は確保しなければなりません.サンプル数を1/2にして得られた数値を2倍にすれば精度は同じだと言う大臣がおりますが,とんでもないことを言うものだ.

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ケルビン立体の見える万華鏡★

菱形12面体の見える万華鏡の作り方の話をしたことがありました.
今回は,ケルビン立体の見える万華鏡を作ります.
菱形12面体とケルビン立体は,下図のような形です.

 この2つの多面体は,正6面体や正8面体と同じ対称性で,重要な形です.
どちらの多面体も空間に隙間なく詰め込むことができ,空間に詰め込んだ時に,
菱形12面体は立方面心格子,ケルビン立体は立方体格子を作ります.

■さて今回は,ケルビン立体の見える万華鏡を作ります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに直角に交わる3枚鏡が切り取る全空間の1/8が,
この万華鏡の非対称領域であることはすぐわかります.
しかしながら,ケルビン立体には,
直角に交わる3枚鏡の2等分面も鏡とする対称性があます.
1/8の空間領域の中に,
それらを鏡とする万華鏡を作ると,1/16,1/24,1/48などの空間を
非対称領域とする万華鏡が作れます.
ここでは,3回対称性が残るように尊重して,1/8,1/24.1/48の
3種類の万華鏡を作りましょう.
*注)非対称領域とは,万華鏡の内部の物体を置く領域のことです.
この物体を,万華鏡の鏡映で広げていき,どれもケルビン立体の映像が生じます.




写真A:
3種類の万華鏡を並べました

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真B:
非対称領域1/8の万華鏡

 

 

 

 

 

 

 

 


写真C:
非対称領域1/24の万華鏡

 

 

 

 

 

 


写真D:
非対称領域1/48の万華鏡

 

 

 

 

 

3種類の万華鏡像で,それぞれに8個ある正6角形面の中をよく見ると,
面の分割数の違いに気づくでしょう.写真Bでは分割なしですが,写真Cでは3分割,写真Dでは6分割になっています.

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美術・図工 凸6角形タイルによる平面のタイル張り★

平面は2次元ですから独立な並進ベクトルは2つ a, bです.従って,
a, bを2辺とする平行4辺形が平面を充填する並進の単位(単位胞)となります.
3つの並進ベクトルがとれる凸平行6辺形もタイル張りが可能ですが,
a, b, cの間に, c=b-aの関係があり,このうちで独立な並進ベクトルは2つです.

 

 

 

 

 

 

平面をタイル張りできる凸6角形の形は,
ここに示した平行6辺形を含むタイプの他に,
さらに2タイプあることを,ラインハルトが学位論文で証明しました(1918)
凸6角形タイルで平面の充填ができるものは,
以下に図示する3つのタイプです.

 

 

タイプ1:2つのタイルが並進の単位を作る
(凸平行6辺形はこのタイプに含まれる)
タイプ2:4つのタイルが並進の単位を作る
タイプ3:3つのタイルが並進の単位を作る

 

 

 

 

 

 

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美術・図工 エッシャー風タイル張りを生む凸5角形タイル★

5角形タイルで平面張り詰め(タイリング)ができるタイルの形は,以前掲載したタイプの5角形タイルだけではありません.全部で15タイプあります.単位胞がたくさんの5角形タイルで構成される15番目のものは,コンピュータを用いて見つかりました.
■米国サンディエゴの主婦マジョリー・ライスが,タイル張り(タイリング)の問題を初めて知ったのは,1975年のScientific American誌のマーチン・ガードナーのコラムでした.平面をタイル張りできる「タイル」の形,別の言い方をすれば,一つのタイルで平面を分割する(テッセレーション)問題です.
平面のタイル張りは,任意の3角形,任意の4角形タイルで可能,凸7角形以上のタイルでは不可能です.凸6角形の場合は,平行6辺形の他にもあり,全部で3タイプのタイル形が可能なことは,ラインハルトが学位論文で証明しました(1918).残されたのは凸5角形の場合で,1975年時点のガードナーのコラムには,ラインハルトの5タイプと1967年にカーシュナーが発見した3タイプが掲載されています.カーシュナーの論文には,タイリングできる凸5角形タイプが他にないことの証明は省略されており,そして,実際にまだ新しいタイプがあったのです.

■以下は,Natalie Wolchoverの記事(Quantamagazine,2017)から引用
https://www.quantamagazine.org/marjorie-rices-secret-pentagons-20170711/

フロリダ州に生まれたマージョリは,1クラスだけの田舎の学校で年長の子供たちと一緒に学びました.彼女は勉強好きでしたが,高等学校で数学を学んだのは1年だけです.貧困と文化的規範のため,大学に進学するなど思いもよらない時代でした.1945年,彼女は結婚しワシントンD.C.に移り,幼い息子と一緒に、その地で商業デザイナーとして働きました.後にサンディエゴに移住します.
数学が楽しみで,黄金比とピラミッドに魅了されていたといいます.ライスは,子どもたちが学校に通っている間に自分も読めるようにと,息子達にScientificAmericanの定期購読を許しました.

この問題では,5角形タイルのタイプ分けがとても難しい.連続変形によりどちらのタイプにも属するタイルがあるし,同じタイプでも出来上がったパターンが全く違うように見えたりもする.新しいタイプであるかどうかの判定は,ライスもずいぶん苦労したに違いありません.数学的な背景がないので,独自の記法システムを開発し,数ヶ月で新しいタイプを発見したといいます.彼女は発見に驚き喜んで,自分の仕事をガードナーに送りました.ガードナーはそれをペンシルバニア州のモラヴィアン・カレッジのタイリング問題の専門家であるドリス・シャトシュナイダーに送ってくれました.
シャトシュナイダーは,ライスの発見が正しいことを確認しました.ライスのアプローチは,後にマイケル・ラオが新しいコンピュータ支援の証明に取り入れた手法と同じでした.ライスは,4つの新しい凸五角形タイプと,それらによるほぼ60種類のテッセレーションを発見しました.シャトシュナイダーの招待で,ライス夫妻は大学の数学会に出席し,聴衆に紹介されました.ワシントンにある数学協会のロビーの床タイルに彼女の五角形テッセレーションの1つが使われ,彼女の発見したエッシャー風の絵が見られるといいます.
コンピュータ支援の新証明法で,フランスの数学者 マイケル・ラオが,ライスが発見した4つを含む15(残りは,ジェームスIII,シュタイン,マンがそれぞれ1つづつ発見)の凸五角形タイプがすべてであることを証明しました.ライスは,2017年7月2日94歳で亡くなりました.認知症のため,五角形タイリングの物語がついに完結したのを知ることはなかったが,ガードナーの提起から数十年が経過していました.

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