2019年8月の記事一覧

とっとりサイエンスワールドin倉吉

今年のとっとりサイエンスワールドの3回目(in倉吉)は8月25日の日曜日でした.
in米子7月30日(参加者891人)では,万華鏡は30人x4回,in鳥取8月4日(参加者1086人)では,万華鏡は30人x5回,in倉吉8月25日(参加者1090人)では,万華鏡は30人x5回を実施しました.
いずれの会場でも晴天に恵まれ暑い中,皆頑張りました.小さい子供達も一生懸命作って,
出来上がるととても喜んで見せに来ます.誰もがみんな達成感が味わえて満足でき,楽しい経験になるでしょう.このようなことで数学や理科に興味を持つ子が増えることを願っています.

万華鏡で説明すべきことはいくつかあります.(1)合わせ鏡:1対の平行な合わせ鏡が,直線上に並ぶ像を作り出すこと.(2)像の配列は市松模様(正像と反射像が交互に繰り返す).(3)交差する鏡の作り出す映像の配列は円上に並ぶこと.(4)鏡の交差角θの2倍が市松模様のペアに対応し,円周上で映像が規則正しくつながるための条件は.360/(2θ)=整数[割り切れること].
4番目の理解には,1点のまわりは360°ということを知っている必要があり,この知識は4年生で学びます.

作業には,自然に身に着いた物質を扱う手先の感覚が必要なのです.これは大人(学問のあるなしとは関係ないようです.表面張力とか粘性とか知識はあるのですが)でもできない人が多いし,小さな子供でもうまく扱える人もいる.粘性のある液体を壁伝いに流し込み試験管の底まで導き,詰め込んだガラスくずの中の空気と入れ替えることが,なかなか難しいらしい.
昔の私たちは子供の頃,毎日水遊びや泥んこ遊びをしていて,これらの物質の性質や力加減は,すっかり身についています.あたかも熟練の職人がやるように試験管を回転させながらとか臨機応変な手で簡単にできるのですが.このようなことが身についていないと職人にはなれません.
そういう意味で,数学だけを勉強するのは本当はあまりお勧めしません.

数学では,√3 などと答えるのが正しいのですが,もの作りでは1.732などと少数で答える必要があります.これらの数値で四則演算するので,工学部の学生には,有効数字という概念を,まず徹底する必要があります.そうでないと,無駄な計算を際限なくやることになります.
このようなことも,学問以前の生活で身に着けるべきことではないかと思っています.

■サイエンスワールド(8月25日)の前日に倉吉に着きましたから,以前から行きたいと思っていた三徳山三佛寺に行って来ました。絶壁の中に建つ投入堂は役行者が法力で作ったという,日本一危険な国宝です.ハイキングではなく修験道の山ですから危険な箇所ばかりで,単独行は禁止されてます.知り合いになったシニアと4人のパーティができました.私以外の3人は山のベテランでしたので幸運でした.鎖で登るのも難所でしたが,下りはもっと難しいです.しかし,皆様の指導がよく無事生還できました.私は足のしびれがあるので足が攣ったときつらかったが,なんとか持ちこたえました.筋肉痛ですが翌日のイベントも盛況に終わりホッとしています.

投込堂や危険なコースのことは,後日項を改めます.

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数理資本主義の時代

数理資本主義の時代だそうだ.この経産省の調査報告の表題には違和感はあるが,
 GAFA(Google,Amazon,Facebook,Apple)と言われるIT企業の繁栄を見れば,
ビッグデータを解析する数学が国富の源泉である(気に入らない表現だが)という主張にも一理ある.
米国では,ビッグデータの時代を迎えて,市民への数学啓発の「数学月間」も「数学統計学月間」に衣替えしている.
日本は米国に20年は遅れているといわざるを得ない.
経産省はあせっているようだが,ことさらに利用できる数学をそのように強調し,
強者になるための道具にすることには違和感がある.
高い年収が得られるとのキャンペーンに動かされて数学を職業とするのでは本末転倒,底が浅いと言わざるを得ない.

これまで,電気電子,計測などの工学部が応用数学の研究と教育を担っていたが,
コンピュータの発展により,数学能力が低下したのは事実と思う.
例えば,理論を何も知らずとも優れたコンピュータ・ソフトを操り,
良い結果を得る状況はしばしば目撃してきた.
しかし,これからのAI(ディープラーニングなど)は,コンピュータ・ソフトを使いこなしてもダメで,
データ・サイエンスの基礎となる数学(確率,統計,情報理論,グラフなどの離散数学,
線形代数,離散Fourier,トポロジーなど)は何でも総動員する.
近年,日本でも工学部にデータ・サイエンス部門が新設され始めている.
データ・サイエンスの基礎となる数学を扱うカリキュラムを作り出す工夫が最も重要であろう.

私は「数学では物は作れない」という意見も正しいと思う.
データ・サイエンスもデジタル制御も強力なコンピュータがあって初めて出来る.
そして,コンピュータが扱うのは数値(解析や予測)のみである.
工学は具体的に物や反応に働きかけねばならない.コンピュータ全盛前には
アナログ制御も工学が応用数学を発展させすばらしい成果を出しているではないか.
これまでの応用数学に敬意を払おう.
「コンピュータは役に立つが数学は役に立たない」とは誰も思ってはいないはずだ.

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亀井図を素数のべき乗が作る1次元格子で拡張する

■2次元,3次元の格子点に配置された約数構造
左図の2次元格子{2n・5m}は,素数2および5が生成する2つの1次元格子{2n}と{5m}の直積で生まれる.10の2次元約数構造が,それぞれ格子点に配置されたものとみなせる.

右図の3次元格子{2p・5q・3r}は,3つの素数2,5,3がそれぞれ生成する1次元格子{2p},{5q},{3r} の直積で生まれる.これは,30の立方体約数構造が,3次元格子点に配置された構造とみなせる.

■4次元約数構造を,新設した1次元格子の格子点に配置してできる4次元+1次元格子の約数構造で,この格子点は37037(右端の4次元超立方体)の約数構造と,新設した素数3の1次元格子{3n}との直積で得られる.

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約数の系統的な構造を示すグラフ(亀井図)

■まず210の約数の構造を例に,亀井図の性質を調べてみましょう.
210の約数の系統的な構造は,4次元の超立方体と同じ構造です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


210は4つの互いに素な素数の積210=2・3・5・7から出来ているので,4次元超立方体と同じ構造です.
頂点1のレベルには1個,頂点2のレベルには,4つの素数で4個.頂点6のレベルには,2つの素数の積で,4C2=6個.頂点30のレベルには,3つの素数の積で,4C3=4個.頂点210のレベルは,4つの素数の積で,1個です.4次元の超立方体には対象心があり,互いに点対称な頂点の積は210になることも理解できます.
4次元の超立方体の1つの次元(例えば,素数2の方向)を消すと,3次元の立方体の2つに分離します.同様なことを,それぞれの3次元立方体で考え,例えば,素数7の方向の次元を消すと,3次元の立方体は2次元の面(例えば1-3-15-5)に分離します.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このような性質を利用して,さらに高次元の6次元や7次元の超立方体を,同様に作れます.

■こんどは,5次元の超立方体を調べます.2310を素因数分解すると,2310=2・3・5・7・11ですから,2310は5次元の約数構造を持つ最小の数であるはずです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この5次元の超立方体は,素数2の方向の次元を消し去ることで,4次元の超立方体1155と2310の2つに分離することはお判りでしょう.
5次元空間は,1次元空間と互いに直交する4次元空間の直積で表現できるからです.
あるいは,互いに直交する2次元空間と3次元空間の直積ともみなすことができます.
例えば,2次元空間の代表を1-2-6-3とし,3次元空間の代表を385とすると,
385,770,2310,1155 の4つの3次元の立方体を見ることができるでしょう.

続く⇒亀井図を素数のべき乗が作る1次元格子で拡張する

 

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約数の構造を表示するグラフ(亀井図)

今日は広島原爆の日です.7月22日の数学月間懇話会では,秋葉忠利(前広島市長)さんの講演がありました.私も,秋葉さんの著書「数学書として憲法を読む」を今読んでいます.
憲法の明文規定を公理として読むと,いくつかの定理が導けるというものです.
そのような定理の1つに,改正してはいけない条項の存在があります.例えば9条や11条はそのような条項で,改正すると自己矛盾を起こします.

8月4日は,とっとりサイエンスワールドin鳥取市でした.多くの高校生,中学生ボランティアの参加がありました.全参加者は,1,086人ということです.万華鏡は5クラス実施し120人が万華鏡を作りました.

 

■約数の構造をわかり易く表示するグラフ(亀井図)について取り上げましょう.この詳細は,
亀井喜久男;1992年数理科学,1992年1月号,p68-73によります.

このようなグラフには数学のいろいろな分野で出会うことがありますから,その性質や応用をじっくり考えてみると面白いでしょう.数学月間の会でも,このようなグラフ(亀井図)について学ぶ機会を企画したいと思っています.

約数の構造に関しては,数学Aの研究課題として高校生にもなじみやすいものであるし,
高次元立体の解釈にも発展できるので興味深いものです.亀井氏は多元構造図とも呼んでいます.

 ■まず実例を示しますので慣れましょう:

(1)30の約数の構造.30=2・3・5

 

 

 

 

 

 

 

 

(2) 210の約数の構造.210=2・3・5・7

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3) 2310の約数の構造.2310=2・3・5・7・11

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今回ここで見た30,210,2310の約数の構造は,それぞれ3次元,4次元,5次元の超立方体と同じ構造のグラフとなりました.大変興味深いことです.

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