2015年1月の記事一覧

万華鏡の話1

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数学月間SGK通信 [2015.01.27] No.048
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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1.万華鏡の美しさが我々の心をとらえる理由は,対称性とカオスの共存
完全な秩序は美しいが,死の世界のようだ.
一方,乱れは千変万化し同じ光景を見るのは一度きり.
そして現象は,いつ起こるかわからない.だから
我々は,はらはらしながら期待し目が離せない.
万華鏡は,秩序の中に乱れもある.生命も,秩序とカオスのただ中にある.
万華鏡の中を降りゆくガラス屑 定まると見し運命にカオスあり

2.対称性
それでは,まず対称性についての考察を始めようと思います.
対称性は自ずと決まるものとして,あるいは合理的なデザインとして生まれます.
環境や境界条件,自然科学の法則が,
その環境下の物質構造やふるまい/現象の対称性を自ずと決定する.
(例)人体,生物,乗り物,結晶,自己組織化,建築物.蜂の巣,花弁の形,柱状節理,etc.
■空間に関する対称性(1点の周りの対称性と周期)
タイル張り,壁紙模様,正多面体,結晶構造,エッシャーの版画.
■時間に関する対称性
時間反転.音楽(J.S.バッハ),詩の韻律,リズム,同期現象.
■現象の対称性
性質空間の対称性.因果律の対称性.

3.対称性はなぜ快いか?
インクの染みは汚らしいが,乾かないうちに紙を折り鏡映対称の染みになると美しく見える.
そしてなんだか想像力を駆きたてる(ロールシャッハ・テスト).なぜ美しく感じるのだろうか.
私はその理由は次のようなものではないかと思っている:
物や事に対称性があると,我々の脳がその全貌を把握するための情報量が圧倒的に減る.
例えば,結晶とアモルファス(ガラス)で,それらの構造(構成する原子の位置)を
記述しようとすると,規則的な繰り返しのある結晶の方が圧倒的に単純だ.
人間の脳は,整理された少ない情報量だと負担が少なく,快いと感じるのではないだろうか.

4.鏡
万華鏡の話がテーマなのだが,ご存知のように万華鏡は合わせ鏡でできている.
万華鏡の対称性は,鏡映のみにより生成されたものに限ります.
我々は鏡をのぞきこむと何か変な気持がするものだが,以下のような話があります:
太古の時代は,我々の世界と鏡の中の世界の行き来ができたそうだ.*

*注)このようなことは4次元の世界なら実際に可能である.例えば,3次元空間で
右の手と左の手は,互いに鏡像になっている.右手が我々の世界にあり,
左手が鏡の世界にあると想像してみよう.左手が鏡の世界を抜け出して
我々の世界のなかで,右手と重なろうとしてもできない相談だ.
ただし,4次元空間なら左手の中身を裏返して,右手と同じにすることができる.
2次元の紙に描いた線画の右手と左手が,いくら紙表面の上で移動しても
ひったり重なることはできないが,紙を折り返す(3次元空間での操作)ならば
重ねることができることは実験で確かめられる.

話を戻すと,鏡の中の生き物とこちらの世界の生き物は仲良く一緒にいたのだそうだ.
ある夜,突然,鏡の世界の住人達が我々の世界で好き勝手を始めるようになった.
そして人々は,鏡の中の住人の正体が「混沌」であることに気付いたという.
そこで,黄帝が魔力によって「混沌」を鏡の世界に閉じ込め,
姿や動きも我々の世界の模倣しかできないようにした.*1)
呪文の効果が切れて,鏡の世界の住人達が勝手に動き出すことが将来起こるかも知れない.
そのようなテーマの小説に*2,3)がある.私は幻想怪奇小説が大好きです.

*1)Turbulent mirror, J Briggs & F. D. Peat, 訳:高安秀樹,高安美佐子
*2)パイプをすう男,M・アームストロング,幻想と怪奇 1(ハヤカワ)
*3)わな,H・S・ホワイトヘッド,怪奇幻想の文学(新人物往来社)

混沌の中から湧き出るように次々と生まれてきたさまざまなものが宇宙を形作った.
このようなプロセスを神の技と語られることもあります.

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