2017年6月の記事一覧

結晶空間群で物理と数学を学ぼう

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数学月間SGK通信 [2017.06.27] No.173
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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表題の数学月間流勉強会を,6月28日,15:00-17:00に実施します.
お気軽にご参加ください.
会場は,東大出版会,会議室です.ちょっと静かなわかり難い場所なので
道順を説明しましょう.
駒場東大前駅下車西口改札を出て,右手に進み高架下をくぐり,線路を左手に見ながら進みます.
パン屋の付近の踏切(渡りません)あたりで,敷地内の様な裏道に入り,しばらく進みます.
駅から400mくらいの距離です.
東大構内ではありませんので,ご注意ください.
東京大学出版会 〒153-0041 東京都目黒区駒場4-5-29 
http://www.utp.or.jp/gaiyou/map_komaba.jpg
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今回の勉強会は,「繰り返し模様の対称性」(結晶空間群)の話です.
1832.5.29決闘で亡くなったガロアが作った群論という数学に係わります.
5次方程式の解は,代数計算を繰り返しても得られないことを証明するときに考えた抽象数学です.
同じ時代に,結晶学者は,単位胞が繰り返す結晶の内部構造の対称性を分類しました.
フェドロフは230種の空間群を数え上げたのです.
繰り返し模様の対称性は,無限に続く空間の周期性と単位胞の対称性(点群)の積と見做せます.
今回の第1回の6月28日は,「空間の周期」について色々話し合おうと思っています.
第2回は,有限図形の対称性(点群).
第3回は,点群と周期(並進群)の積で空間群が作れることを学ぶ予定です.
第4回は因果律の対称性です.
さて,周期と言っても色々な話題があります.1つのブロック(単位胞)で空間をデジタル化する様式を,
対称性で分類したものがブラベー格子です.
だたし,空間をデジタル化すると必ず周期的になるかというとそうでもありません.
非周期の例にペンローズ・タイル張り(準結晶)があります.
そして,この非周期のタイル張りは,高次元の周期的空間から投影された影であることもわかります.
結晶の様な周期的な場にある電子の存在確率はブロッホ関数と呼ばれるFourier級数のような関数になっており,
結晶周期の対称性と同様に,逆格子と呼ばれるエネルギー空間の格子の対称性も重要です.
純粋数学では,補題や定理や系の証明に終始するのですが,数学月間流では,
概念の源泉たる結晶・鉱物や物理の現場に立ち返り,群論も学ぼうというものです.
ご期待ください.

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SGK通信

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数学月間SGK通信 [2017.06.20] No.172
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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2次元のブラベー格子が5種類あることは既に学びましたが,3次元のブラベー格子が14種類あることには,
まだ言及していませんでした.実際の結晶は3次元の物体ですから,3次元のブラベー格子は特に重要です.
14種類のブラベー格子をどのようにして数え上げるか表に従って説明します.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/586541/03/18096603/img_0?1497878818

3次元ですから,3つの互いに独立なベクトルa,b,cがとれ,それらの組を対称性で分類すると
上段の7つの図(いわゆる晶系に対応している)が得られます.
例えばhexagonalでは,ベクトルaとbは周期が同じだから,a,a,cと書きました.
ベクトル間の交差角度は,対称性での分類の観点から,”90°,120°,および,3つの交差角度が互いに等しい”,
などが特別扱いされます.これらに基づき,図示した7つが,まずブラベー格子になります.
これら7つはすべて,P(primitive単純格子)--格子の頂点のみに格子点がある(単位胞に1つの格子点が含まれる)ものです.
7つのP格子のそれぞれに,複格子;C(c-面心),I(体心),F(面心)が存在可能か調べます.
格子点を付加すると対称性が破れてしまう場合は,複格子の存在が許されない場合で,表中にx印がついています.
また,作った複格子は結局P格子と同じものである場合は,表中にPと書きました.
こうして生じる異なる型の格子(ブラベー格子)を数え上げると14種類であることがわかります.

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ミラー指数

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数学月間SGK通信 [2017.06.13] No.171
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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政治が国民のやる気をそいでいる今日この頃ですが,皆さまお変わりなくお過ごしでしょうか.
ここでは,周期的空間=結晶空間について語ることが多いのですが,
まだミラー指数についてお話したことがなかったようです.
結晶を扱う固体物理では,必ず最初に学ぶことなのに,説明はとばしておりました.
ミラー指数は結晶面の記述に必要です.その原理(なぜ逆数をとるかなど)の理解に,
混乱する学生が多い所でもあります.疑問が解ける説明になるよう留意しつつ,今日ここで取り上げます.

結晶の内部構造(原子配列)の対称性は,結晶の外形にも現れるものです.
皆さんも,規則正しい面で囲まれた結晶の外形を見たことがあるでしょう.
水晶,蛍石,ザクロ石,黄鉄鉱,様々な結晶の写真をご覧ください.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/82/18085782/img_2_m?1497280452

まず,結晶に座標軸(X-軸,Y-軸,Z-軸)を決めるのですが,
これは結晶の対称性を考慮して合理的に決めます.一般に,座標系は斜交座標軸です.
先の例で具体的に言うと,
水晶では,X-軸,Y-軸の交差角は120°,Z-軸は,X-Y平面に垂直.
蛍石,ザクロ石,黄鉄鉱,などでは,直交座標系です.

結晶は周期的な空間=格子です.格子点を乗せている面が結晶面です.
(格子点は周期の表現であり,しいて言えば単位胞を点で代表していると考えてください.
ここに原子があるというわけではありません)
結晶構造中には,さまざまな結晶面が存在します.結晶の外形に現れる面も結晶面の1つであります.

ある結晶面が,X-軸,Y-軸,Z-軸を過る切片を,a/h, b/k, c/l とすると,
この結晶面の平面の方程式は,hx/a+ky/b+lz/c=1 です.ここで,
a,b,cは,X-軸,Y-軸,Z-軸の周期(座標軸に沿って単位胞をとりますから,単位胞のサイズとも言えます),
h,k,lは整数です.結晶面が格子点を乗せているからには,h,k,lが無理数ではいけません.
これは,結晶空間が単位胞を並べてできているデジタル空間であることからの帰結で,
結晶面の有理指数の法則(アウイ,1778)と言います.
さて,この場合の結晶面のミラー指数は,(h,k,l)となります.
ミラー指数は,イギリスの鉱物(結晶)学者ミラーが,1839年に考案したものです.
2次元で,ミラー指数の実例を掲載してpきます.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/82/18085782/img_1_m?1497280452

ミラー指数(h,k)は,切片を(a/h,b/k)と書いた時のh,kであるから,
切片は(a/1,b/2) と思っても良いし,(2a,1b)=(a/(1/2),b/(1/1))として,
h:k=1/2:1/1=1:2を求めても良い..

x軸に平行な面の切片は,(∞a,b)=(a/(1/∞),b/(1/1))として,
h:k=0:1とする.

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双対多面体の話題

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数学月間SGK通信 [2017.06.06] No.170
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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久しぶりですが,今回は正多面体や菱形多面体の話題を取り上げます.
ユニット折り紙で,菱形多面体や星型多面体を作ったことがある方もおありでしょう.
まず,プラトンの正多面体は5種類であることを復習しましょう.
正p多角形の面が頂点でq個集まってできる正多角形は,シュレフリーの記法で{p,q}と記します.
プラトンの正多面体は,正4面体{3,3},正6面体{4,3},正8面体{3,4},正12面体{5,3},正20面体{3,5}です.
面を頂点に変えた図形同士は互いに双対な図形と言います.記号で言うと
{3,3}は自分自身と双対です.{4,3}と{3,4}は互いに双対.{5,3}と{3,5}は互いに双対です.
互いに双対の図形の対称性は同じです.

まず,Fig.2をご覧ください.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/11/18073811/img_1_m?1496617471
左図は,互いに双対の図形,正6面体{4,3}と正8面体{3,4}の重ね合わせ.
双対の図形の対称性は同じですので,重ね合わせた図形も同じ対称性になります.
右図も同様で,正12面体と正20面体の重ね合わせの例です.

次にFig.1に移りましょう.
https://blog-001.west.edge.storage-yahoo.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/572283/11/18073811/img_0_m?1496617471
6・8面体は,正6面体と正8面体の重ね合わせの共通部分です.同様に
12・20面体は,正12面体と正20面体の重ね合わせの共通部分です.
これらの多面体は正多面体ではありません(2種類の正多角形の面があるので,半正多面体).

6・8面体の双対図形が菱形12面体,12・20面体の双対図形が菱形30面体です.
例えば,左側の系列で言うと,6・8面体の正方形の面を,菱形12面体の稜が4つ集まる頂点に,
正3角形の面を稜が3つ集まる頂点に対応させています.

互いに双対な多面体の対称性は同じですから,
左の系列
菱形12面体,6・8面体は,立方体(あるいは,正8面体)と同じ対称性.
右の系列
菱形30面体,12・20面体は,5角正12面体(あるいは,正20面体)と同じ対称性です.

菱形多面体は,面の形が菱形で正多角形ではありませんから,正多面体や半正多面体の仲間ではありません.
(注)半正多面体とは,複数種類の正多角形の面でできるものです.菱形は正多角形ではありません.

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