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2019年7月の記事一覧

277■鏡の迷路

7月28日(日)はとっとりサイエンスワールドin米子でした.891人の参加者があり,万華鏡は30人クラスを4回で120人が作りました.前日の27日(土)は米子がいな祭りで街は大変な賑わいでした.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて,米子にあるとっとり花回廊で,期間限定の鏡の迷路をやっていることを知りました.どんなものかちょっとでも見たかったので,帰りに寄ることにしました.オープンが10時で帰りのシャトルバスが10時30分ですから,歩く時間を入れると迷路に居たのは数分でした.急ぐほど迷い込んでしまいますから,速く脱出出来て良かったのですが,もう少しゆっくり楽しみたかったです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡の迷路は正3角形のタイル張りの世界を鏡で作っています.セルが正3角形だと隣のセルへの通路が3つですが,どれを選ぶか迷います.もしセルが正6角形で蜂の巣様だったら通路は6つあり,ものすごく面倒な迷路になるでしょう.作ってみたいものだと思いました.2列に並んだ正6角形セルの帯の上で,1つのセルから逆戻りしない条件で,ハチが移動するとして,n番目のセルにたどり着く異なる道の数はフィボナッチ数列1,2,3,5,8,・・・で増加することが証明されています.セルの数が増えればものすごく面倒な迷路が作れるでしょう.
■肝心の万華鏡のワークショップの様子レポートは,次の写真をご覧ください.

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276■数学書として憲法を読む

本日7/22は,先の号でお知らせした数学月間懇話会を開催しました.
たいへん楽しい会で懇親会も盛り上がりました.
プログラムは以下の様でした.
1.片瀬豊さんと数学月間,谷克彦
2.教育数学と高大接続,岡本和夫
3.数学書として憲法をよむ,秋葉忠利

今回のメルマガでは3の内容の一部だけのホットな速報です.
秋葉忠利(前広島市長)氏の講演は,同名の書籍の発売に合わせタイムリーです.
都合に合わせた解釈や改憲がまかり通るようではなりません.
この時期に特に国会議員は心して読むべきでしょう.
憲法の全体は,無矛盾,自己完結するとして,文字通り憲法を公理の集まりと見て
素直に読んでみます.すると,論理的にいくつかの結論(定理)を導くことができます.
まず面白いのは,
憲法改正の手続き規定である96条の対象にならない「改正不可条項」があることが示されます.
改憲禁止の条項があるとは明示されてはいないが,論理的にそのような結論になる条文は
かなりの数(8か条)あることを論理的に導いています.改正不可能な条文もいれて,
改正の対象にならない条文は30か条を超えるそうです.また,96条は改憲のための必要条件に過ぎないそうです.
義務という言葉は素直に法的義務と読むべきなのですが,
都合の悪いところは道義的要請とよむ「憲法マジック」が通用しているそうです.
99条に対してそのような曲解がなされています.
「国民の総意」というのは大事な文言ですがその意味するところは深いですね.
多数とは違い総意なのです.ゆっくり読んでみましょう.

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275■オーボールとフラーレン

以下の写真はオーボールという赤ちゃんのおもちゃです.

球の表面は互いに接する大きい円20個と小さい円12個でできています.
円を正多角形にすれば,いわゆるサッカーボールの形で,正6角形20個と,正5角形12個です.
正12面体と正20面体は互いに双対な多面体で,
オーボールの小さい円は正12面体の面,大きい円は正20面体の面に対応しています.
オーボールの大きい円は正12面体の頂点,小さい円は正20面体の頂点になり,
両者の頂点32個でできるサッカーボールに双対な多面体は菱形30面体です.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


菱形面の対角線比は黄金比です.
さて,大きい円と小さい円の半径の比はいくらでしょうか?
(解答)これはC60(フラーレン分子)と同じ形なので,
正5角形の1辺も正6角形の1辺も同じ長さ(C-C結合のボンド長)ですから,
オーボールの大きい円と小さい円の半径の比は,
辺の長さの等しい正5角形と正6角形の外接円(あるいは内接円)の半径比となります.

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理数科離れと産業空洞化

■不特定市民を対象に数学への共感を呼びかけるMSAM
米国の数学月間MathsAwarenessMonthは1986年のレーガン宣言により始まりました.
1989年には昭和が終わり,1991年はベルリンの壁崩壊,ソ連邦解体と続きます.1990年には日本の製造業(例えば半導体)は世界一位になります.レーガン宣言は「数学は万学の基礎であり,国力(産業)の基礎である」と謳い,工業力の基の数学力の低下の危機をくい止めようとの政策でした.こうした背景下で,1986年に創始された数学月間MAMは,毎年その年の統一テーマ(1994数学と医学,1995数学と対称性,etc.)を決めて,大学などを拠点に,毎年4月に全国各地で展開されます.統一テーマの変遷をみると公平に見て非常に納得のいくものです.数学関連4学協会が協力したJPBM(Joint Policy Board for Mathematics)が次年のテーマを決め実施します.
日本では,米国のように社会と数学は無縁でないことを啓蒙する動きは弱く,小林昭七教授から米国MAM情報を聞き監視していた片瀬さんが,見かねて日本の数学月間を提唱(2005年),私たちのボランティア活動が始まりました.米国に20年遅れていますし,その規模は比較にもなりません.
■90年代は,世界的な生産の空洞化の始まりです.それ以前から起きていた理数科離れは,これによりさらに加速されます.80年代は,サンシャイン計画,超LSI技術研究組合など,官民共同の技術開発が隆盛で,私たちもアモルファスシリコンの研究をしました.成果が出て技術が完成しても,商品とならないことを,このとき私も経験しました.製造コストで中国に負け生産の空洞化の連鎖が続きます.研究費削減,技術者集団の解散冷遇の社会が,理数科離れのもとになったと思っています.1990年に世界の頂点に達した日本の半導体技術も,その後は衰退の一途でした.
空洞化はグローバル企業による属国化を進め,ラチェット原則による規制撤廃,労働者の流動化,などは,国家の主権を守れず民主主義の危機に陥っています.
■90年代は日本では理数科離れとゆとり教育の時代でした.米国も同様に理数科離れはあったのですが,米国の数学月間MAMは,数学と社会のかかわりを数学の入門から先端まであらゆるレベルで学習できる非常に優れた指標を与えました.
2017年からMAMは統計学Statisticsを加えてMSAMになりましたが,これもGAFAで象徴される大量情報の状況に対応したものです.STEM教育という科学技術工学数理の融合重点教育も米国で始まったものです.
市民に対して数学への共感を惹起する,米国のMAMやMSAMのような活動が日本でも重要です.

■生徒を対象に豊かな数学を体験させるNMF
米国国民数学祭りNationalMathsFestivalは,MSRI(Mathematical Sciences Research Institute) がMoMathなどと協力し,毎年5月[今年は4日(土)]に,ワシントンDCと40州の科学博物館で実施しています.あらゆる年齢層の2万人の参加者があります.もう少し地道に,学校カリキュラムや試験準備でない豊かな数学能力を育てる活動が,米国の「数学サークル」や「数学の月曜日」です.学校カリキュラムと併用するので,能力別教育により個性を伸ばすことができます.
日本のゆとり教育は,意欲のある生徒と有能な教師にとっては有効であったが,画一的な教育では時間の浪費になりました.
•数学サークル(月1,地域の大学に実施)
•数学の月曜(週1の昼食時,ゲームなどの教材がある)

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ゆとり教育

■ゆとり教育は2002年から実施され2008年に終わりました.学力低下の弊害などが指摘されています.しかし,その理念は競争社会へのアンチテーゼであり,望ましいことでした.「総合的な学習の時間」が作られ,豊かな学習プログラムが可能になり,私なども全国各地の学校に行き万華鏡の授業をしました.子供達には楽しいイベントになり,ほんの少しは数学に興味を持ったでしょう.面白いところだけやる一回きりの授業ですから,毎日授業をしている先生方にはずいぶん迷惑をかけたのではないかと思います.
■ゆとり教育では,少数点以下1位の数までしか使わないとか,円周率は3にするとかがよく例にされます.これは,計算を簡単にして,主題の問題に思考を集中するためなのでしょうが,数字の概念を歪めてしまう欠点があります.数直線上の点は連続で,実数に対応します.「実数」という述語はまだ使わないとしても,将来出会う概念の準備をしたい.「整数」は「実数」のうちの特別なもの.「実数」には分数で記述できる有理数と,分数では記述できない無理数があること.円周率は無理数であることに気づくときがいずれ来ます.自分の知っていた数が属する広い数の世界の体系に感動するでしょう.円周率が整数であるかのような単純化は有害です.

ゆとり教育が終わり,新指導要領とのことですが,分数は分母が2の冪乗のものと,その他の数の場合とは,別々の年度で教えるそうです.2の冪乗は丸いピザの分割で説明しやすいというのがその理由だそうです.しかし,分数の定義では何等分でも一貫したやり方が,概念の把握を明確にします.わかり易くしようとして,数学概念をゆがめるのは有害です.
■さて,ゆとり教育の始まる以前の80年代から,理数科離れと学力低下は始まっていたようです.このような社会風潮は,90年代に始まる産業の空洞化と無縁ではないと思います.報われない技術者と社会の数学軽視の風潮,両親の数学軽視は子供の理数科離れを生み,産業の空洞化はさらにその傾向を加速する負のスパイラルになりました.1990年に世界1位になった日本の半導体技術の凋落ぶりは今や見る影もありません.グローバル企業による属国化,規制撤廃は民主主義の破壊へと向かっています.⇒理数科離れと産業空洞化

■1989年のレーガン宣言ではじまった米国の数学月間活動MAMは,万学の基礎である数学へ関心をもち,産業力の低下を防ぐことを国民に呼びかけます.2017年から,大量データの時代に適応して

数学統計学月間MSAMになりました.学校のカリキュラムと異なる豊かな数学を楽しむ国民数学祭NMFや,数学サークル活動,これを補完する数学の月曜日活動もあります.これらの活動の併用により,能力別数学教育(日本のゆとり教育の欠点は,画一的な実施にあったと思います)の効果が出ているようです.

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