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2015年7月の記事一覧

数学月間懇話会(第11回)の様子

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数学月間SGK通信 [2015.07.28] No.074
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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暑い日が続きます.皆様いかがお過ごしでしょうか.
7月22日の数学月間懇話会(第11回)は無事に終了しました.参加の皆様ありがとうございました.
今回のゲスト講演者,細矢治夫先生は瑞宝中綬章を春に叙勲されました.
多角形百科(丸善)細矢・宮崎,および,七金三パズルの販売もありました.
今年も暑かったです.高校生5人を含む30人を超す参加があり熱心に質疑もなされました.
参加者の過半数が懇親会にも参加されました.
教室付近の構内は自動販売機がないし,飲み水に不便し私も熱中症気味.
でも今年は良い方です.一昨年の米沢興譲館の高校生がバスで団体参加したときのことが思い出されます.
バスから降りて炎天下グラウンドを歩かされて気の毒でした.
彼らはトイレも給水もそこそこ休む間もなく参加したのでした.
暑い最中に毎年こんな状況では,水くらい飲めるように改善したいものです.皆様ご要望などお寄せ下さい.
数学月間(7/22~8/22)はまだまだ続きます.
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/558900/79/16871179/img_0_m?1437962932
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/558900/79/16871179/img_1_m?1437962932
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私の講演内容 “繰り返し模様の観賞法” は,blog別項に掲載しています.
(そちらをご覧ください)http://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/16859852.html
繰り返し模様の対称性は有限図形の対称性にくらべて,なじみのない人が多いようです.
教科書で取り上げているのは有限図形の話だけですからね.
しかし,周期的空間は,結晶などが実在する重要な世界です.
私は「空間を均一にデジタル化する」ということからスタートする教程を
構想しています.人間の視細胞を始め自然界のほとんどのものがデジタル空間です.
勉強会など機会があれば,繰り返し模様の数学の愛好者を増やしたいものです.

数学らしくいうと,繰り返し模様と有限図形との関係は
「並進群を核(法)として,空間群は点群に準同型」という事になります.
ここで,繰り返しの規則が「並進群」,繰り返し模様を表すのが「空間群」,
有限図形を表すのが「点群」です.「法として」というのは時計を想像してください.
12を法として無限に続く時間を表示しています.

準同型という概念の心は,集合のもつ特徴を見つける(整理する)のに,
集合の要素の持つある特徴を同じと見做せれば(その小異に目をつぶれば),
別の特徴が顕著に見えてくるという事.
日常生活の色々な場面でこの考え方が出てきます.
「小異を捨てて大同に就く」というは,この考え方に関係がありそうです.
つまり,「小異を同値と見做すなら,別の違いが見えてくる」
そして,「別の違いがない場合は,大同に就ける」という事でしょう.

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十年目の数学月間記念号

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数学月間SGK通信 [2015.07.21] No.073
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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数学月間(=数学と社会の架け橋)は今年で十年目になりました.
7月22日~8月22日を数学月間とすることは,2005年に日本数学協会が提唱しました.
この期間は,数学の土台となる2つの重要な定数
(円周率)π=3.14・・・≒22/7と(自然対数の底)e=2.71・・・・≒22/8に因みます.
数学月間の会SGKは,月間初日の7月22日に「数学月間懇話会」を開催しています.

(注)今年の数学月間懇話会の案内は文末にあります.

我々は,この期間に各地で数学を楽しむイベントが盛んになるよう応援しています.
皆様の周りに数学イベントの情報などありましたらお知らせください.
SGK通信に掲載し連携イベントとして広報いたします.

漢字が読めないのは恥だが,数学なんて知らなくても構わないと思っていませんか.
数学は浮世離れしたものではありません.我々の社会は至る所で数学に支えられています.
数学月間は,“社会が数学を知るとともに,逆に数学が社会のニーズを知る”機会でもあります.
数学月間懇話会では,色々な分野で活躍する数学を鑑賞したり,
数学が生まれた現場に立ち戻りその生い立ちを観賞します.
完成された抽象数学は巨大山脈のようで,一般人には近寄りがたく感じるのものですが,
このように数学を見ることで共感できるのではないでしょうか.

我々の数学月間の手本となった米国の数学月間(スタート時は週間)の原点
“レーガン宣言(1986年)”を,以下に掲載します.今読んでも味わい深く格調高いものです.
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アメリカ合衆国大統領による宣言5461----
 「国家的数学認識週間」1986年4月17日

宣言(National Mathematics Awareness Week)

 およそ5000年前、エジプトやメソポタミアで始まった数学的英知は、科学・通商・芸術発展の重要な要素である。
ピタゴラスの定理からゲオルグ・カントールの集合論に至る迄、目覚ましい進歩を遂げ、
さらに、コンピュータ時代到来で、我々の発展するハイテク社会にとって、数学的知識と理論は、益々本質的になった。
 社会と経済の進歩にとって、数学が益々重要であるにも拘わらず、数学に関する学課が、
米国教育システムのすべての段階で低下する傾向にある。
しかし、依然として、数学の応用が、医薬、コンビュータ・サイエンス、宇宙探究、ハイテク商業、
ビジネス、防衛や行政などの様々な分野で不可欠である。
数学の研究と応用を奨励するために、すべてのアメリカ人が、日常生活において、
この科学の基礎分野の重要性を想起する事が肝要である。
 上院の共同決議261で、国会が1986年4月14日から4月20日の週を、国家的な数学認識週間として制定し、
この行事に注目する宣言を出す事を大統領に要請した。
 今日、アメリカ大統領、私、ロナルド・レーガンは、1986年4月14日から4月20日の週を
国家的数学認識週間とする事を、ここに宣言する。私は、すべてのアメリカ人に対して、
合衆国における数学と数学的教育の重要性を実証する適切な行事や活動に参加する事を勧告する。
その証拠として、アメリカ合衆国の独立から210年の西暦1986年の4月17日、ここに署名する。
ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)

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新国立競技場のキールアーチ

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数学月間SGK通信 [2015.07.14] No.072
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ここでは,新国立競技場のキールアーチの不都合な力学についてのみ論評します.
その莫大な予算と環境破壊が不評な新国立競技場問題では,
発注前に設計図面の確定があったか,合意形成に必要な情報公開があったのか,
何処の誰が決定責任者なのか,全く見えないプロセスが最大の問題点ではあります.
工期がないと言ってはなし崩しに進めて行くやり口には,もう散々です.
以下の為末氏のブログの意見は全くの正論だと思います.
http://tamesue.jp/20150710/
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キール(竜骨)とは,船の船首から船底を通って船尾に至る鉄骨の背骨のことです.
新国立競技場の設計(ザハ案)には,巨大なキールアーチが2本使われています.
1本500億円かかると言われています.http://togetter.com/li/841805
この構造の問題点は,以下で評論されています.
http://ameblo.jp/mori-arch-econo/entry-11873045351.html

アーチの形は, http://blogs.yahoo.co.jp/tanidr/16586546.html で述べたことがあります.
アーチの曲線は,上下ひっくり返すと懸垂曲線と同じ形です.
中心から曲線に沿って測った距離をs,その点の曲線の接線の傾きをθとすると,
tanθ/s=一定 の関係があることをそこで説明しました.
アーチの形は,曲線内部の全ての位置で圧縮応力でつりあっているのが特徴で,
大きな荷重を支えることができます.
しかし,あまりにも曲率の大きい平べったいアーチになるとポッキリ折れそうな気がしませんか.
圧縮応力よりもせん断応力の方が圧倒的に優勢になってしまいますからね.

アーチは最終的に,両側の接地点にすべての荷重がかかります.
370mのキールアーチ1本の重量は3万トンと言われていますので,
両端の各接地点はW=1.5万トンの重量に耐えねばなりません.
アーチの頂上の高さをどれくらいに抑えるかによりますが,
ザハ案のデザインのように低く抑えたい(大きな曲率にしたいなら)接地点の傾きθ0が小さくなりますから,
接地点での水平分力W・sinθ0は大きくなります(θ0=30°なら,1.3万トン).
アーチ橋の所で述べたように,アーチ橋の根元には大きな水平抗力が必要で,
両側が山に挟まれた峡谷などは,アーチ橋に適した立地条件です.しかし,
新国立競技場の場合は平地なので,アーチの根元の外側からガッチリ固定したい所ですが,
地下に地下鉄大江戸線があるのでできそうにありません.
そこでアーチ端の内側同志を鋼材で引っ張る(アーチを弓とすると弦のように引っ張る)ことにする.
この鋼材は両側から引っ張られますから,2.6万トン重ほどの大きな張力になります.
軟な鋼材では耐えられませんね.
ちなみに,コンクリートは圧縮には強いが引っ張りには弱い.
鉄筋コンクリートの鉄筋はコンクリートの引っ張り強度をカバーするために入れるのです.
アーチは圧縮力に強いコンクリートが使えますが,キールアーチでは使えません.
いろいろ補助手段を工夫するでしょうが,合理的な設計ではないので工夫のし甲斐がないでしょう.

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地震(べき乗則)と被害(原発事故)

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数学月間SGK通信 [2015.07.07] No.071
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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この所,雨の日が続いています.皆様如何お過ごしでしょうか.
7月22日は数学月間懇話会を開催しま.どうぞお出かけください.

昨年(2014年7月22日)の数学月間懇話会の話題の一つに,
中西達夫さんの「スパゲッティを巡る旅」がありました.
これはスパゲッティを適当に砕くと,破片の長さ分布がどのようなものになるかという興味ある実験でした.
興味おありの方は,「数学文化」第21号をご覧ください.このとき観察される「べき乗則」は,
社会の関心事の一つである「地震」にも関係があります.

この地震のテーマは,メルマガNo.031('14/09/30発行)で,
複雑系(原発)の事故雪崩のテーマは,メルマガNo.006('14/05/15発行)で,
取り上げたことがあります.

地震のマグニチュードMは,エネルギーの対数です.マグニチュードを決めるのにリヒターが発案した当初の定義は
便宜的なものでしたが,現在ではもっと理屈に合ったモーメント・マグニチュードが採用されています.
(注)震度というのはその地の揺れ(加速度[ガル])の程度の段階です.
地震で解放されたエネルギーは,生じた断層面の面積×平均変位×地層の剛性の積です
(大雑把にいえば生じた断層の長さに比例します).
生じた断層の長さが長い方が解放されたエネルギーは大きいし,
地層の剛性が大きいほど大きな歪エネルギーが蓄えられます.
これらを踏まえ,起こりうる地震の最大エネルギーを見積もるとM9.5程度と考えられています
(1960年のチリ地震ではM9.5が観測されている).

地震のマグニチュードMと発生頻度(回/年)nの間にn=10^{a-bM}の関係があるのを,
グーテンベルクとリヒターが発見しました.a, bはその地域の地層の剛性などを表す定数で,
b≒1ですので,地震のマグニチュードが1つ大きくなるごとに,地震の回数は1/10に減ります.
ゆえに,これを「べき乗則」とも言います.

地震では多く発生するマグニチュードというものがありません(正規分布ではない).
大きな地震ほど少なくなりますが,M9あたりも起こり得る.そんな巨大な地震に見舞われたなら壊滅的です.
地震被害の低減対策は,被害のコスト(Mの関数)×発生確率(Mの関数)を小さく抑えることです.
従って,頻度は小さいけれど致命的な被害を惹起する巨大地震に対して,
被害が最小となるように備える必要があります.広域の汚染と何十年では済まない年月を要する
原発事故の被害コストは致命的です.原発の再稼働は止めましょう.

クリーン・ルームのチリのサイズ分布も「べき乗則」だと言われています.
もし正規分布のように頻度の高いサイズがあるなら,
そのサイズのチリの発生に特化した対策ができるのですが,「べき乗則」では特別な対策は困難です.
でもこの場合は,大きなサイズのチリが桁外れに大きな被害コストを与えると言う訳でもありません.

中西氏の実験したスパゲッティやクラッカーのほかに,分布関数を求める実験には色々あります.
凍ったジャガイモを投げて砕き,破片のサイズ分布を調べた人(南デンマーク大,1993年)などもいます.
ここでも「べき乗則」が確認されました.

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