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今年の数学月間お知らせ

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数学月間SGK通信 [2015.06.16] No.068
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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◆お知らせ
数学月間懇話会(第11回)
主催●日本数学協会,数学月間の会(SGK)
日時●7月22日,13:50-17:20
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1.十年目の「数学月間」
 片瀬豊,高窪正明(SGK)
2.「サッカーボールの対称性を解くTopological Symmetry」
 細矢治夫(お茶の水女子大名誉教授)
3.繰り返し模様の観賞法
 谷克彦(SGK)
4.テーラー展開の話
 鈴木啓一(SGK)
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会場●東京大学(駒場)数理科学研究科棟002号室
最寄り駅●京王井の頭線「駒場東大前」
参加費●無料
問合せ先●数学月間の会(SGK)
sgktani@gmail.com,谷克彦(SGK世話人)
直接会場においでください(開場13:30)

◆数学月間だより1
日本数学協会は,2005年に,7月22日--8月22日を数学月間と定めました.この期間は,数学の基礎定数 π(22/7=3.142..) とe(22/8=2.7..)に因みます.この期間に,数学への共感を高める活動が各地で盛んになるよう我々は応援しています.
数学が色々な分野で社会を支えていることを市民が知ることは,数学への共感の呼び起こしに直結します.逆に,社会が必要としている数学を数学者が知る--言い換えれば,異分野の課題の中に数学が適用できるニーズや新しい数学が生まれるシーズを見出す--ことも重要であります.

先ず隗より始めよで,SGKは毎年7月22日に数学月間懇話会を開催しています.
これまでのテーマを見て見ましょう.
(資料1)**********
◆数学月間懇話会10年の記録
第1回(2006.07.22)会場:シーボニア
数学月間のπとeの連分数展開,公開鍵暗号 山崎圭二郎
数学と社会                真島秀行
ゲストスピーチ             鈴木裕道
第2回(2006.08.06)会場:議員会館
財政再建と数学:TQC手法        (日科技連)
第3回(2007.07.22)会場:ルベソンヴェール
シミュレーション            谷口健英
第4回(2008.07.22)
数学月間  片瀬豊
ある数学者たちの物語   上野正
数学と基礎科学   谷克彦
秘宝-数学的オブジェの照明    岡本和夫,河野俊丈
第5回(2009.07.22)
宇宙のかたち            河野俊丈    
造血幹細胞移植データベースと統計   田渕健
生体情報のゆらぎとフラクタル性     河野貴美子
MRIの数学的原理 真島秀行
第6回(2010.07.22)
手と目で観賞,数学曲面と多面体     手嶋吉法
教育数学の試み             岡本和夫
第7回(2011.07.22)
サイバー世界のモデリング        北川源四郎
量子コンピューティングの考え方     荒井隆
米国MAM複雑系と日本の原発事故     谷克彦
第8回(2012.07.22)
物理化学の探検ー化学の中の数学の世界  細矢治夫
じゃんけんの必勝法を論じて統計的思考に 石黒真木夫
第9回(2013.07.22)
考える楽しみわかる喜び         水谷一
最小二乗問題の新解法と逆問題への応用  速水謙
数学祭り                谷克彦
第10回(2014.07.22)
人口の集合関数としての「民力指数」   松原望
スパゲッティを巡る旅          中西達夫
第11回(2015.07.22)
十年目の数学月間                  片瀬豊,高窪正明
サッカーボールの対称性を解くTopological Symmetry 細矢治夫
繰り返し模様の観賞法          谷克彦
テーラー展開の話                  鈴木啓一
注)第4回以降の会場は,数理科学研究科棟・東大駒場キャンバス

次号に続く

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数楽しよう--鼎談

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数学月間SGK通信 [2015.06.09] No.067
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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『数学 理性の音楽』,東京大学出版会(2015.4)刊行記念イベントが,
東京大学伊藤国際学術研究センター地下1階 ギャラリーにて開催された.
(6月8日,19:00-21:00)
同書の著者,東大名誉教授(岡本和夫・薩摩順吉・桂利行の三氏)による鼎談.

この書籍の副題は,自然と社会を貫く数学で,
まさに,数学月間のコンセプトが語られております.
ぜひ皆様が一読されることに期待し,ここでは書籍の内容には言及しません.
その代り,鼎談の内容を速報します(今夜,参加し帰宅したばかりでホットな情報です).
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鼎談は,岡本氏の「数学の3つの側面」
ー道具としての数学.言葉としての数学,対象としての数学--の話から始まりました.
著者の3氏は,奇しくも歴代の東京大学大学院,数理科学研究科長です.
数学の大学院が理学部から抜けて,駒場に大学院数理科学研究科が創設されたのが
1992年のことで初代の科長が岡本氏,次いで薩摩氏,桂氏でした.
本郷キャンバスの理学部から大学院だけ抜けて,駒場キャンバスに
大学院数理科学研究科が設立できたのは,教養学部の数学の歴史があり,
基礎科学科もあったので,環境が整っていたことがあったようです.

20世紀の数学は,抽象化・純化に進んだわけですが,これは数学を学び難くしています.
どうも,学生・生徒たちは数学を人間が作ったという気がしないそうです.
完成された体系がそこにある.どうして生まれたかなど考える余裕もないようです.
完成された数学はそびえたつ山脈のようでとりつきがたい.
数学月間でも数学が生まれる所から親しむことを薦めています.

数学は役に立つのかというのは愚問です.
すぐ役に立っこともあるし,何十年もの後で役に立っものもあります.
岡本氏の研究したパンルヴェ方程式はソリトンの研究に使われるし,
暗号(公開鍵.楕円曲線),デジタル信号の誤り訂正,などの例が出ました.
1900年に,ヒルベルトは23の問題を出し,数学は抽象化の方向に進みだします.
同年,ポアンカレも人力で計算できるところまで行き着き,非可積分の方程式の
性質を示しました.その先はコンピュータの出現を待たねばなりませんでした.
現在はコンピュータによる数値計算が盛んで,非線形やカオス,分岐理論も研究されています.
モデリングやシミュレーションの現象数理科学も盛んです.

私は数学と数理科学の違いを質問してみました.
数理科学は数学のように厳密な証明の手順がないのではないか.
それとも数理科学というのはコンピュータを用た数学であるのか.
などという漠然とした感じがあったからです.
結論は,どちらも同じである(ニュアンスの個人差はあるが)という事でした.

コンピュータで計算は万能かというと,そうでもないようです.
例として出されたのは調和級数:
1/1+1/2+1/3+・・・+1/n+・・・=lim_n→∞(log n)=∞
ですが,nをずいぶん先までたし行っても,対数ですから級数はなかなか∞にはなりません.

最後に岡本氏が面白い計算を提示しました.
方程式の問題より,数の問題の方が奥が深いということを象徴するためです:
2×3×5×7+11=13+17
2^2+3^2+5^2+・・・・+17^2=1+2+3+・・・・+36=666

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講演会おしらせ

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数学月間SGK通信 [2015.06.02] No.066
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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日本数学協会・第14回総会および講演会のお知らせ
日時: 2015年 6月7日,
場所: 東京大学数理科学研究棟(駒場キャンバス)
11:30~12:30 総会
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13:30~15:40 講演会
13:30~14:30
「十年目の数学月間,これまでとこれから」,片瀬豊・谷克彦(SGK)
14:40~15:40
「視覚と錯視の数学からアート,そして画像処理」,新井仁之(東京大学)
講演会にどうぞお気軽にご参加ください.
協会員は無料ですが,協会員外は参加費2千円かかります.

*******(私の話そうとしていること)*******
数学月間は,数学から社会を見ると同時に,社会からの要請を数学側が知る機会でもあります.
国内外の数学月間テーマのトレンドを見ると,ビッグデータや統計学,複雑系や非線形,
モデリングやシミュレーションの話題です.
これらはすべてコンピュータを駆使した数値計算によって可能になった分野です.
これまでの数学とは違う新しい数学分野が生まれているところと言えるかもしれません.
1900年ポアンカレは,独立な因果列からなる可積分の方程式はごくわずかで,
大部分の方程式は非可積分(干渉し合う因果列)であると警鐘をならしました.
明日の一つの出来事には,今日の全ての出来事の影響が反映される世界です.
遠方の地で過去に起きた蝶の羽ばたきが,この地の明日の大風を引き起こす要因の一つになり得る
「バタフライ・エフェクト」の世界です.
ちょっとした初期パラメータの違いでカオスが起きるかもしれません.
これらは方程式を積分して関数で書き表すことは不可能ですが,
コンピュータを用いた数値計算で現象の追跡ができます.
モデリングとシミュレーションにより現実の現象を理解する
「現象数理科学」がさまざまな分野で発展しています.

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空間のデジタル化

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数学月間SGK通信 [2015.05.26] No.065
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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これは私の造語です.あまり耳慣れない言葉ですが,とても気に入っています.
結晶学では「空間格子」という言葉がでてきますが,「空間のデジタル化」はこれと同じ状況の表現です.
空間のデジタル化とは,「空間を,1つの多面体を並べ(面と面が接するよう)て隙間なく張りつめること」
を意味します.例えば,角砂糖のような立方体を並べて,空間を張り詰めたとすると,
このデジタル化された空間の対称性は,立方体の対称性と同じであることはわかりますね.
”立方体(A)”と同等な対称性の多面体で,空間のデジタル化ができる多面体に,
面心格子を生む”菱形12面体(B)”と,体心格子を生む”ケルビン立体(C)”があります.
これらは立方体の対称性に分類される3種類の空間充填です(Fig).
(この図はpov-rayを用いて作成しました)
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/85/16728485/img_0_m?1432564271

1種類の多面体を互いに面が隙間なく接するようにして空間に詰め込んだ状態を想像してください.
この状態が空間のデジタル化です.
空間のデジタル化の様式を分類したいなら,多面体の対称性に注目すべきでしょう.
一様で連続的な空間が,デジタル化によって,異方性があり周期的な空間に変わります.
無限に広がる空間が,単位となる1つの多面体に還元されます.
すでに,アモルファスと結晶の項目で述べましたが,デジタル化された空間はシンプルで扱いやすい.
このような空間を「結晶空間」と言います.
一寸脱線しますが,連続信号をサンプリングして得たデジタル信号の周波数帯域が抑えられるのと似ています.
結局,3次元では14種類の空間のデジタル化の様式があり,
これは結晶学でブラベー格子が14種類ということと同じことです.

(注)2種類の多面体を使って空間を充填することもいろいろ考察できます.
例えば正8面体と正4面体を使って空間を周期的に充填します.
2種類の多面体の混合による空間の充填では,必ず周期が生じるかといえばそうでもありません.
ペンローズのタイリングに相当する3次元非周期充填もあり得ます.

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不思議な数式

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数学月間SGK通信 [2015.05.19] No.064
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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このような不思議で奇麗な法則があります.
https://www.facebook.com/maxplancksociety/photos/a.10150979253928376.447707.324380493375/10153218754768376/?type=1

1³ + 5³ + 3³ = 153
16³ + 50³ + 33³ = 165033
166³ + 500³ + 333³ = 166500333
1666³ + 5000³ + 3333³ = 166650003333
and so on and om and on!

不思議な数式です.証明してみたくなるでしょう.
いや,なぜこのようなことが起こるのかが知りたいですね.
別の話ですが,似たような数式がまだあります.
ただし,こちらの場合は「数字の桁数が増えていっても,いつも成り立つ」
という性質ではありません.
https://twitter.com/Derektionary/status/484852762102857730

166³ + 500³ + 333³ = 166,500,333
296³ + 584³ + 415³ = 296,584,415
710³ + 656³ + 413³ = 710,656,413
828³ + 538³ + 472³ = 828,538472

閑話休題.初めの不思議な法則の証明法の問題に戻りましょう.
考え方は人さまざまで,証明法には色々あるでしょう.
論理が正しくて,命題が証明されるのならば,どのような証明方法でも正解です.
それでも,「美しい」証明とか「エレガント」な証明とか言われるものがあります.
そのような証明は,「命題の本質にズバリと触れている無駄のないシンプルな証明」
のことだと私は思っています.
補助線一本で解けてしまう図形問題の証明などはその例でしょう.
力ずくで計算して証明できても,命題の本質や現象の起こる仕組みが見えていないのでは,
本質にズバリと触れているとは言えません.
本質や仕組みがわかるということは,その仕組みを基礎とするもっと幅広い命題にも適用できる.
つまり「一般化できる」証明法でもあり価値が高いと思います.

小林昭七先生が「数学と美」というエッセイを,「いまを生きるための教室」角川文庫の中に掲載しています.
(私は小林先生がお亡くなりになる直前の夏の日本滞在中にお会いしこの本を頂きました)
この本から以下の部分を引用しておきます:
「他の科学と同様,数学でも新しい結果は重要である.しかし,数学では既に知られている結果の
別証明や新しい見地からの解釈もかなり評価されている.定理の本質を理解させるような証明,
「なるほどそういうことだったのか」と思わせるような美しい証明は,それが既知の定理の
証明であっても高く評価される」

「数学は美しい」と良く言われますが,美しいと言われても漠然として私にはピンときません.
これを言い換えるなら,「シンプルである」,「本質を見抜いてそれに言及している」,
「話を逸らさないで真摯に課題に集中している」という意味でしょう.

「問題の本質の議論から逃げて,話をそらし,周辺の議論にすり替える」という手法は,
政治や社会で良くみられることです.特に,今の安倍政権では目にあまるものがあります.
「丁寧に説明していく」とよく言いますが,これは聞く耳を持たないと言うことです.
我々の方が説明してあげたいくらい十分な知識があります.国民をバカ扱いしないでもらいたいものです.
論理や数学を軽視する社会に公正はありません.数学月間活動をもっと社会に広げる必要がある所以です.

もう一度,閑話休題で,この不思議な式に戻りましょう.
皆さん証明を考えてみてください.
n桁の数字を $$ (x_n), (y_n), (z_n) $$と書くと,
 $$(x_n+1)=10(x_n)+6,(y_n+1)=10(y_n),(z_n+1)=10(z_n)+3$$

$$(x_n)^3+(y_n)^3+(z_n)^3=(10^2n)(x_n)+(10^n)(y_n)+(z_n)$$ が成立するとして,数学的帰納法で
力ずくで計算して証明することはできるでしょう.でも計算は大変ですし本質は別の所にありそうです.
この問題の本質が何処にあるのか私にもまだ理解できません.皆さん良い証明が出来たら教えてください.
ポイントは循環小数のように続く数字と数の表記法(10進法を使っている)にあるように思います.
多分,以下の表式が利用できます:
$$(x_n+1)=(1+6/9)(10^n)-6/9,(y_n+1)=5*(10^n),(z_n+1)=(3+3/9)(10^n)-3/9$$ 

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