数楽しよう--鼎談

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数学月間SGK通信 [2015.06.09] No.067
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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『数学 理性の音楽』,東京大学出版会(2015.4)刊行記念イベントが,
東京大学伊藤国際学術研究センター地下1階 ギャラリーにて開催された.
(6月8日,19:00-21:00)
同書の著者,東大名誉教授(岡本和夫・薩摩順吉・桂利行の三氏)による鼎談.

この書籍の副題は,自然と社会を貫く数学で,
まさに,数学月間のコンセプトが語られております.
ぜひ皆様が一読されることに期待し,ここでは書籍の内容には言及しません.
その代り,鼎談の内容を速報します(今夜,参加し帰宅したばかりでホットな情報です).
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鼎談は,岡本氏の「数学の3つの側面」
ー道具としての数学.言葉としての数学,対象としての数学--の話から始まりました.
著者の3氏は,奇しくも歴代の東京大学大学院,数理科学研究科長です.
数学の大学院が理学部から抜けて,駒場に大学院数理科学研究科が創設されたのが
1992年のことで初代の科長が岡本氏,次いで薩摩氏,桂氏でした.
本郷キャンバスの理学部から大学院だけ抜けて,駒場キャンバスに
大学院数理科学研究科が設立できたのは,教養学部の数学の歴史があり,
基礎科学科もあったので,環境が整っていたことがあったようです.

20世紀の数学は,抽象化・純化に進んだわけですが,これは数学を学び難くしています.
どうも,学生・生徒たちは数学を人間が作ったという気がしないそうです.
完成された体系がそこにある.どうして生まれたかなど考える余裕もないようです.
完成された数学はそびえたつ山脈のようでとりつきがたい.
数学月間でも数学が生まれる所から親しむことを薦めています.

数学は役に立つのかというのは愚問です.
すぐ役に立っこともあるし,何十年もの後で役に立っものもあります.
岡本氏の研究したパンルヴェ方程式はソリトンの研究に使われるし,
暗号(公開鍵.楕円曲線),デジタル信号の誤り訂正,などの例が出ました.
1900年に,ヒルベルトは23の問題を出し,数学は抽象化の方向に進みだします.
同年,ポアンカレも人力で計算できるところまで行き着き,非可積分の方程式の
性質を示しました.その先はコンピュータの出現を待たねばなりませんでした.
現在はコンピュータによる数値計算が盛んで,非線形やカオス,分岐理論も研究されています.
モデリングやシミュレーションの現象数理科学も盛んです.

私は数学と数理科学の違いを質問してみました.
数理科学は数学のように厳密な証明の手順がないのではないか.
それとも数理科学というのはコンピュータを用た数学であるのか.
などという漠然とした感じがあったからです.
結論は,どちらも同じである(ニュアンスの個人差はあるが)という事でした.

コンピュータで計算は万能かというと,そうでもないようです.
例として出されたのは調和級数:
1/1+1/2+1/3+・・・+1/n+・・・=lim_n→∞(log n)=∞
ですが,nをずいぶん先までたし行っても,対数ですから級数はなかなか∞にはなりません.

最後に岡本氏が面白い計算を提示しました.
方程式の問題より,数の問題の方が奥が深いということを象徴するためです:
2×3×5×7+11=13+17
2^2+3^2+5^2+・・・・+17^2=1+2+3+・・・・+36=666