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電力の自給自足を目指す

■電力を遠方の原子力発電所の様な大規模施設で発電し,消費地に送電するのは無駄ではないでしょうか.それぞれの地域で発電し消費する(地産地消)「分散型」がこれからの合理的なシステムです.遠距離送電も原子力発電も止めましょう.家庭の屋根で太陽光発電しても,100V交流に変換して東電に売っていたのでは,原子力発電の電力の一部とされ,現在の課金システムの枠内です.将来目指すべきシステムの姿は,大規模な送電網から独立した電気エネルギーの自給自足です.
皆さんの家電で必要となる電気の質を考えて見ましょう.ラジオ,TV,パソコン,携帯,発光ダイオード,...これらはどれも,直流(5V,9V,12V,15V,19V,24Vなど)で動くものです.交流100Vのコンセントから使うために,わざわざそれぞれACアダプターが付属し,アダプターだらけで嫌になります.掃除機や工具の様なモーターを使うものでも電池で働きますし,冷蔵庫やエアコンも車載では,12V(あるいは24V)のバッテリーで動かしているではありませんか.交流100Vはいらないということになりませんか.低電圧直流用の家電は,需要が出れば生産できます.その他,各種ヒータや湯沸かしなどは,電気で加熱する必要もありません.目的に合った電気以外のエネルギーもさまざまあります.何でも電気でやろうとするのは止めましょう.
■さて,皆さんの家庭に送電される電気は,ほとんどが,100Vの交流です.電気が送られてくる2本の電線の一方は接地されていてほとんど0V,電線の他方の電位は,±100V(正確には±141V)の間で周期的に変動(sin波の形)しています.その周波数は50Hz(東日本),あるいは60Hz(西日本)です.さわると感電し危険な方は,±100Vで周期的に変動している方です.家庭のコンセントを観察すると,コンセントのプラグの挿入口の切れ込みの長さに違いがあるでしょう.切れ込みの長い方が接地側.こちらを触っても感電しません(電気工事がJIS規格通りに正しく実施されていればの話です).直流は,電圧の周期的変化のない電気で,電池からの電気はその例です.
■エジソンがアメリカ合衆国で電気事業を始めた頃(1880年代),発電所でできた電気を送電するのに直流が良いか交流が良いかの議論がありました.エジソンが直流送電(DC),それに対して,ウエスティングハウスとニコラ・テスラが交流送電(AC)を主張しました.直流送電/交流送電のどちらにも長所・短所があります.例えば,交流は,トランスで変圧できる利点がありますが,表皮効果で電線表面ばかりに電流が集まり電線内部が無駄になる欠点もあります.結局,エジソンの直流送電方式で,アメリカ合衆国の電力事業が始まりましたが,1888年の大寒波のときにニューヨークでは,雪の重みで直流電力送電網が崩壊するなどの事件がありました.ナイヤガラ発電プロジェクトでは,GE社+エジソンに対し,ウエスチングハウス社+テスラが契約を勝ち取り.バッファロー工業地帯への交流送電が1896年に開始されました.現在まで,直流送電/交流送電のどちらも,世界各地でそれぞれに実用化されています.電車では架線に直流を送電しているのはご存知でしょう.
■しかしながら,発電および送電の主流は,現在では交流です.
電力は電圧Vと電流Iの積V・Iですから,同じ電力を送るにも,電圧を高くすれば電流を小さくできます.送電線での発熱による損失は,電線の抵抗をRとすると,R・I^2ですから,電流の2乗に比例し,電流が小さいと損失が減ります.従って,高圧送電方式が採用されています.高圧送電のときは交流送電の方が有利なのは,トランスにより容易に変圧できるからです.
■ここで,立ち止まって現状を見てみましょう.現代は半導体技術の発展により,直流のままでの変圧(DC-DCコンバータ)は容易です.変圧原理は,ACを介することには変わりないのですが,半導体内部で昇圧も降圧も容易にできます.需要のある電力も低電圧の直流になりました.真空管から半導体に,ブラウン管からLCDに,白熱電球からLEDに変ったのです.消費する電力も桁違いに低下し,高電圧でもなくなりました.そのため,太陽光パネルで発電した低電圧の直流電力を,送電せずにそのまま消費することが出来そうです.ただし,このためには鉛畜電池などの2次電池の用意が新たに必要となります.
■私は今,12Vの「ディープサイクル鉛蓄電池」(32Ah)と太陽光パネル(50W級の小型のもの)を用いて検証実験中です.この実験程度の電池(1万円以内)の蓄電量ですと,300W×1時間程度の電気量の貯えしかできません.LED照明などは,たいして電力を消費しませんが,冷蔵庫は1時間40W,冷房は1時間90W程度の電力を消費します.太陽光で発電できない夜間は,電池に蓄えられた電力を使いますから,何を何時間動かすか節約を考えましょう.そうでないと,際限なく電池の容量を増設することになります.DC-DCコンバータによる直流出力(5V,19V,24Vとバッテリ-直結の12V),および,DC-ACコンバータによるAC100Vが利用可能です.使用機器に合わせた1度の変圧は避けられませんが,コンバータの効率は90%以上なのでロスは最小限です.昇圧と交流化後にAC100Vの東電の送電線に上げ,AC100Vの送電線から機器に必要な低圧直流に再度変換する2度手間と比べるとロスがありません.

日刊ベリタ(2017.01.09)に掲載