2019年11月の記事一覧

ジャーミイの模様の幾何学~美しいものには理由がある~(下)

■イスラーム模様の特徴 ➡亜群

イスラーム模様の特徴は,局所的に対称性の高い星型ロゼットがちりばめられていることです.平面群で存在が許される回転対称は,2,3,4,6回に限られ,5回や,7回以上の回転対称は周期性と両立できません.その理由は正5角形のタイルや正7角形以上のタイルは平面を隙間なく埋めることができないからです.

イスラームの繰り返し模様中に,高い対称性(9回とか10回とか12回など)のロゼットをよく見かけますが,これらの対称性は各ロゼットの内部だけで,全域を支配することはあり得ません.そのため,対称性が高そうに見えても,平面群(17種類ある)のどれかに割り当てざるを得ないのです.

イスラームの特徴的な模様を,平面群で分類するのではなく,もっときめ細かい対称性の記述はできないものでしょうか? 群ではなく,亜群(1926)や混群という代数系などが提案されていますが,その発展が行き詰っているのは残念なことです.

 

■高次元の周期的な世界から2次元の世界への影 ➡高次元格子からの射影

 

イスラーム模様を高次元の周期的空間からの2次元平面への影であると解釈する方法もあります.

周期性のないPenroseのタイル張り(1976)を,このような方法で作ることもできます.

左図は,周期的な2次元世界から1次元世界への射影で,2次元世界で存在した周期性が失われる事例です.5次元の周期的空間[3次元や2次元の周期的空間には存在できない5回対称軸が存在可能]を,2次元平面に射影すると,5回対称のロゼットを作れますが,5回対称性はロゼットの内部だけで2次元平面での周期性は壊れます.イスラーム模様にちりばめられた高い対称性の星型ロゼット(高次元空間からの影)を見ていると,高次元の宇宙の中に自分が存在する世界があることを実感し,不思議な気分になります.

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