2014年7月の記事一覧

数学は映画の出演者(下)

◆3Dへ
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/plaque.jpg
Broone橋にある記念プレート,
Hamiltonが4元数を発明したときこの橋の下を散歩していた.
数学者William Rowan Hamilton卿はDublinのTrinity学寮の最も著名な息子であろう.
彼は最後の20年,複素数が2次元の回転を表すのと同様な
3次元の回転の表現を捜し求めた.
人生の最後にHamiltonは,4元数という答えを見出した.
q=a0+a1i+a2j+a3k
ここで,i 2
=j 2
=k 2
=ijk=-1, a 0
, a 1
, a 2
, a 3
は実数.
複素数でしたように,4元数を幾何学的に記述し,回転の表現に用いよう.
今度は2次元でなく3次元の回転だ.
i, j, kは,3次元内の基本平面:iはyz平面,jはxz平面,kはxy平面で,
外側向き法線はそれぞれ x,-y,z方向である.
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/planes_web.jpg


i, j, kは,3次元空間の基本平面という幾何学的解釈ができる.
点a=(a 1
,a 2
,a 3
)を,角βだけ原点を通るb=(b 1
,b 2
,b 3
)軸の回りに
回転してみよう.2つの4元数q 1
,q 2
をb, β から作る.
q 1
=cos(β/2)+sin(β/2)(b 1
i+b 2
j+b 3
k)
q 2
=cos(β/2)-sin(β/2)(b 1
i+b 2
j+b 3
k)
a (x,y,z方向の単位ベクトルの線形結合)に,これら2つの4元数を乗じて
a'=q 1
aq 2
この積で得られる点a'は,aを与えられた軸の回りに角度βだけ
回転したものだ.
複素数は平面内の回転記述,4元数は3次元空間内の
回転記述に用いられる.
ダブリンの橋の下を通りかかったとき,Hamiltonのひらめきは,
3次元で物体を回転させる最も効率の良い方法であることがわかった.
だが彼の新しい乗法で,だれも幸福にならなかった.
物理学者Kelvin卿は4元数のことを:”....美しく巧妙だが,とにかく,
これに触れるものには,純粋邪悪である...と評した.
とりわけ厄介なのは,2つの4元数を掛け合わせるとき,
答えがかける順番で変わることだ.この特性を非可換という.
Hamiltonの積則をみれば,ij=k, ji=-kが示せる.
もし,i, j, kを単位平面のように扱えば,Kelvinや彼の同時代の
人々を困らせた特性は,直接導ける.
◆映像を生活へ
Hamiltonの発明はいまや多数の物体を動かしたり,
運動の創出へのグラフィック応用に使われる.コンピュータグラフィックで
最も重要なツールの2つは,変形と補間である.
補間とキーフレーミング技術は,物体の初めと終わりの形と位置の特定と,
その間の様子をコンピュータに計算させることだ.以下に示す映像のように:
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/teapots_web.jpg
一連のフレームにわたって徐々に変形するティーポットの形
諸君は,未発達のへびのアニメーション(Richard Wareham製作)を
見ることができる.
ここではへび全体が,いくつかの特定な点の運動から,
補間を用いてコンピュータで作られた.
[訳注:ファイルのダウンロード先は略]
変形は単純なものから複雑なものを作り出す方法だ.
下の映像のように,変形球を覆っている布は,
普通の球面で起こる同じ光景を数学的な変形をして得られる.
変形も補間も速くて安定な数学的技術を必要とし,
4元数関連の手法がこれを提供する.
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/sphere.png
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/deformed_sphere.png
◆ガーラムを信じさせる
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/motioncapture1.jpg
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/dots.jpg
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/skeleton.jpg
データは体の色々な部分に付属しているリフレクターの運動から
キャプチャーされる.....
....骨格は,データに数学的にフィットさせる.
上で記述したテクニークは古典的なアニメーションでも基本的なツールである.
漫画キャラクターでは,我々はその結果が信じられるのはとても幸せだ.
しかし,人間のアニメーションでは,たちまち偽者とわかってしまう.
現実味ある動きを作り出すにはモーションキャプチャーが必要になる.
ロードオブザリングズのフィルムバーションから,ガーラムのような
多数のキャラクターを作るにはモーションキャプチャーによる.
これらは,身体,頭,肩,ひじ,ひざなどの回転点に,本当の人の
リフレクターを付加して作られる.それぞれは,多重のカメラによって
フィルム化されリフレクターの位置の変化をコンピュータに記録する.
骨格は3次元データでフィットされる.
最後に,上に記述された技術はすべて,骨格上に具体化し,
生活し,呼吸し,動くキャラクターを作り出す.
もしまだ諸君がタイトルロールを完全に見るために留まっているなら,
首尾よい映画作製で使われた種々の製作タレントに気づくだろう.
作者,ディレクタ,俳優,衣装デザィナー,プロップビルダー,....
これらのクレジットリストが続々流れる.
しかし一つの名前がしばしばタイトルロールから忘れられている-数学だ.
今日の映画の多くは,光線追跡の幾何学,
4元数による空間内の回転なくしてはできない.
次回は,あなたの映画シートで,CGスペクタクルを楽しむために,
数学に対してポップコーンを掲げよう.ショーの隠れたスターへ.
(訳:谷 克彦)
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著者
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/jl_small.jpg
Joan Lasenbyはケンブリッジ,トリニティカレッジで数学を専攻し,
電波天文学グループ物理学科のPhDをとった.
マルコーニの企業で短期間働いた後に,大学に戻り,現在,
ケンブリッジ大学工学部の信号処理グループの講師や
トリニティカレッジの研究のディレクター,研究員である.
彼女の興味は,コンピュータビジョン,コンピュータグラフィックス,
画像処理,モーションキャプチャと幾何代数の分野にある.

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数学は映画の出演者(上)

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数学月間SGK通信 [2014.07.01] No.018
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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今回も,MMP,plusマガジン42号の翻訳です.
(2007年の数学月間懇話会で配布したものです)
017号のHTML形式が正しく表示されなかったので,
018号で再度掲載します.
まだ正しく表示されない場合は,以下のホームページをご覧ください.
http://sgk2005.sakura.ne.jp/htdocs/index.php?key=jo5i1xzi0-37#_37
数学が映画に入る
http://www.plus.maths.org/issue42/features/lasenby/index.html
Joan Lasenby
ポップコーンは手に入れたか?よい席は選んだか?座り心地は良いか?
それではタイトルロール....
◆数学が誇らしげにプレゼント....
映画の中の信じられないほど真に迫ったコンピュータで作られた映像に
皆な驚く.ジュラシック・パークの恐竜,ロード・オブ・ザ・リングズの不思議 --
-- 特に,ガーラムの出演者 --- は,数学なしではできなかったということを
知らない人が何と多いことか.
どのようにして,これらの驚くべき映像が作られるのだろう?
コンピュータ・グラフィックス,コンピュータ・ビションは大きな課題だ.
この記事では,完成作品に使われる数学のいくつかを簡単に概観する.
最初に映画の世界を創造し,次にそれを生活へ持ち来たそう.
◆場面を作る
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/trianglesurface_web.jpg
最初の対象物は,三角形のような単純多角形よりなる針金骨格
として作られる.
コンピュータ生成映画を作る第一ステップは,物語中のキャラクターや,
それらが棲む世界を創造することだ.これら対象物のそれぞれは,
接続された多角形(通常は三角形)で構成された表面として作られる.
各三角形の頂点は, コンピュータメモリにストアされる.
どの三角形のどちらの面が,物体やキャラクターの外側であるかを
知ることは重要だ.
この情報は, ストアされている頂点の順番として,
右ネジの規則に従い記号化される.これで,どちらが外か一意に決まる.
[頂点の順番に従い,三角形の周りを右手の指を
人差し指,中指,..と回したとき]
諸君の親指が向いているのが三角形の外側だ.例でやってみよう.
三角形(A,B,C)の外側方向(外側法線)は,三角形(A,C,B)の外側方向と
反対であることがわかるだろう.
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/rhrule_web.jpg
右ネジ規則で定義された(A,B,C)の外側法線は(A,C,B)とは反対方向
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/rayfacet.jpg
諸君の視点からファセット面までの光線を追跡しよう.
光線は反射して光源を通過するか?
いまや対象物の表面は三角形の針金網で,
網のコンポーネントのそれぞれを彩色する準備ができた.
我々がモデル化している光景のライティングを,
実際と同じにすることが重要である.
これは光線追跡と呼ばれるプロセスを用いなされる.
視点から物体へと遡り光線追跡し,反射させる.もし,
目から出た光線がファセット面(針金網三角形の中の一つ)で反射され,
光源を通過するなら,そのファセット面は光源に照らされ明るい色,もし,
反射された光線が,光源を通過しないなら,
そのファセット面は暗い色の影付をする.
光線を特定のファセット面まで追跡するには,表面を数学的に記述し,
光線とファセット面の平面とが係わる幾何学方程式を解くことが必要になる.
これはベクトルを用いなされる.光景の3次元座標系に,
視点となる原点(0,0,0)を加える.
ベクトルv=(a, b, c)は,原点から発し座標 a, b, cで終わる矢である.
例えば,vにスカラー2を乗ずるのは,
規則 2v=2(a,b,c)=(2a,2b,2c)のように行う.
2vはvと同じ方向で2倍長い矢だ.
表現λvを見よう.λは変数(言い換えれば,任意の実数).
これはもはや,ある長さの矢ではない. 長さが変数になったのだから,
矢の方向だけを表している.別の言葉でいえば,
この表現はベクトルvを含む直線を表す.
それは我々の視点からベクトルvの方向に発する光線を記述する.
三角形のファセット面で定義される平面は,3つの情報で表現される:
3頂点のうちの1つの位置頂点a 1
と,a 1
からa 2
へのベクトルと,
a 1
からa 3
へのベクトルである.
下の囲みの中に,目とファセットで決定される面から発する一本の光線の
方程式を与えた.光線がファセットをよぎるか否か,何処でよぎるかを知り,
反射された光線の方程式を計算するには,これらの2式を解かねばならぬ.
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光線の表現 r=λv
頂点 a 1
, a 2
, a 3
のファセットが定義する平面の式
r=a 1
+μ 1
(a 2
-a 1
)+μ 2
(a 3
-a 1
)
-------------------------------------------
(光線追跡の数学の詳細は,Turner Whittedの革新的な論文
”影付け表示のための改良された照明モデル”,
Communication of the ACM,Vol.23,Isuue6に見ることができる.)
光線追跡は現実味ある光景を作り出すことができるが,たいへん遅い.
これはコンピュータが作る映画の製作には用いることができるが,
コンピュータゲームのようにリアルタイムで照明を変化させることが
必要な場合問題である.
影や火線束(コースティク)[収差による回り込みでできる光像],
多重反射のような複雑な現象は,モデル化が困難で,動的あるいは
もっと巧妙な数学的な手法,事前計算放射輝度伝搬(PRT)や
ラジオシティ(R)が使われる.
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/doom3_web.jpg
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/neverwinter_web.jpg
コンピュータゲームDOOM3,Neverwinter nights は
ダイナミックライティングが必要だ.
◆必要なのは若干の想像力
光景,照明が出来てしまえば,監督が”アクション!”と叫び,
キャラクターが動き出すのを待っばかりだ.
いまや,数学がイメージに命を吹き込むのを確かめよう.
最も基本的な物体の動きの一つは,
与えられた軸の回りの与えられた角度の回転である.
座標幾何学は,回転後の物体各点各点の位置を計算するツールを提供する.
だがこれらのツールは効率的で高速であることが重要だ.
これらのツールを見るにあたり,数学授業に一寸立ち寄って見る....
[訳注:この後に,複素平面のこと,複素数に虚数 i を乗じると反時計回りの
90度回転になること,などの説明が続くのだが略]........
http://plus.maths.org/issue42/features/lasenby/complexplane.gif
1806年にアマチュア数学者Jean Ribert Argandは複素数と i に
幾何学的な解釈を与えた.
複素数を乗ずることは,幾何学的には回転を表す.

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