2014年7月の記事一覧

完全なる建築=モダーン建築術を支える数学(下)

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数学月間SGK通信 [2014.07.12] No.019b
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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ロンドンシティホール
ロンドンシティホールは,ロンドン市長,ロンドン議会,大ロンドン当局を収容する.
ガラスの使用と内部の巨大ならせん階段が,
透明性と民主的プロセスへの近づき易さを象徴しているようである.
外部から見たとき,最も印象的なことは,建物の奇妙な形である.

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テムズ川にかかるロンドンシティホール.

テムズ川の土手の上に置かれて,建物は,川原の小石を思わせる.
そのまるみが再び民主的な理想を思わせる.けれども,ガーキンと同じように,
形が決められたのは,単に形のためだけではなく,エネルギー効率を最大化するためでもある.
これを実現する1つの方法は,建物の表面積を最小にすることである.
それにより,望まない熱の損失と流入を防ぐことができる. 諸君の中の数学者は,
あらゆる形の中で,体積を基準にすると,球形が最も表面積が小さいことを知つている.
これが,ロンドンシティホールが球に近い形をしている理由だ.
建物の不均衡も同じくエネルギー効率に貢献する:南面のオーバーハングが,
ここの窓を上階の床で陰にして,夏季の冷房需要を低下させる.ガーキンでと同じく,
コンピュータモデリングが,建物の中で気流が如何動くか示し,
自然の換気が最大になるように建物内の形が選ばれた.実際,建物は冷房を必要としない.
同程度のオフィススペースのエネルギーに比べ,たつた1/4と伝えられる.
螺旋階段さえ,単に審美的理由で選ばれたのではない.それらの分析の一部として,
ロビーの音響効果,人々の声が適切に聞こえるような建物をSMGは設計した.
初めは音響効果は,広いホール内をエコーが跳ねるという状態でひどく,
何らかの対策が必要だった.Foster+パートナーの過去のプロジェクトの1つが手がかりを提供した:
ベルリンの Reichstag は大きいホールを含むが,大きい螺旋の傾斜路があり反響が起きない.
SMG はロンドンのシティホールに同様な螺旋階段のモデルを作り,
Arup Acoustics会社がこの新モデルの音響効果を分析した.諸君は,
以下のアニメーションで,音が階段後ろに閉じ込められ,エコーが減じるのを見ることができる.
このアイデアは最終設計に採用された. (アニメーション © Arup Acoustics.)

ロンドンシティホール
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ガーキンの全貌.平面パネルが曲面を近似していることに注意.映像 © Foster + Partners

ガーキン,ロンドンシティホール,他の多くのFoster+パートナー作品がたいへんモダーンに見えるのは,
外側が曲面であるためだ. これらは,名うての困難さで,建設費が高くなる.
そこで幾何学者のチャレンジがある:単純な形から作る一番良い方法は何か?
” これは我々の主たるチャレンジの一つだ,”De Kestelierは語る,
”我々のプロジェクトの実に99%は,いかなる曲面も使っていない.
例えばガーキン,1種類の曲面パネルはトップにあるレンズのみ.
建物が曲面という印象は,多数の多角形の平面パネルで曲面を近似的に作ることで生じる.
パネルが多いほど錯視も真実味をおびる.
複雑な表面を記述するこのような平面パネル解を見いだすことで,
SMG は専門家になった.De Kestelier が説明するように,幾何学[その形]は,
しばしば経済により決定される:”我々は矩形に近いパネルを使う傾向がある.
なぜならそれはいっそう経済的であるからだ.資材をカットするとき安くなる.
三角形では,多くの材料ロスがあるが,矩形に近いとロスが少ない.
矩形に近いと構造が少ないので,視覚的にもさらによい.”これは,
表面が完全に矩形から成り立っているロンドンシティホールで例証される.
実際、ロンドンシテイホールは,理想的な幾何学形と建設容易さのバランスをとる必要性を
よく例証している: 扱い難い丸い形はスライスに切ることで扱われた.スライス一つ一つは,
僅かに傾いたコーンで,容易に数学的に記述でき,平面パネルでの近似も容易である.

合理的な設計
数学的な方程式で記述されるコーンのスライス,トーラス,球などの表面は,
しばしば,SMGデザインの基礎となる. これらを,バーチャルモデル創造に使うときに,
数学的に生成される表面はコンピュータ上で容易に表現できるので,たいへん利点がある.
多くの個別座標を蓄え記述する構造ではなく,方程式を蓄えるだけでよい.
表面の正確な形は方程式のパラメータを変じて制御できる(例として下図を見よ).
平面解はやはり比較的容易に設計できる:ソフトウェアはオリジナルの表面の
ノードポイント集合に直線を引くようにする.

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これらの表面は,関数z=e^-a(x^2-y^2) のグラフである.ここで,
3次元座標系は,x,yと垂直z軸である. a は表面の形を決める.
第一の表面はa=1 ,第二の表面はa=5 ,第三の表面はa=7 .

数学的に定義された要素の集合からなる複雑な構造を考えるのは,
バーチャル世界では有用ではない:実際にどのようにそれを建設するべきかを,
建物モデルの建設の一歩一歩のガイドにつくる.合理化のこのプロセスは,
もう一つの SMG の仕事の重要な部分だ.前と同じように,数学的な完全性は,
実用性のために道を明渡さなければならない:"2~3週間前に,
誰かが楕円の一部である壁のプランのことで私のところに来た”De Kestelierは語る.”
もちろん楕円は数学的には描くのは易しい.それをさらに合理化することをなぜ望むのか?さて,
私は楕円のこの部分を3つの円弧に合理化することを決めた.
理由は,壁の建設で,コンクリート壁用の型が要るためだ.これは全体の形を建設するのに
多くの型パネルを使ってなされる.もし諸君が楕円にしたいなら,
すべての型パネルは異なっていなければならない:楕円の周囲を進むと,
楕円の曲率はたえず変化しつづけるのだから. もし楕円をやめて3つの弧にするなら,
諸君が必要とするのは,3セットのパネルだけで,各セットのパネルは同じである.
これはずっと簡単になる." 数学者に理想的なものは常に建築家に理想的であるわけではない.”

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英国博物館の屋根.設計Foster+パートナー

博才の人
SMG が,建物の外見と気流・音響のような物理現象の双方をモデル化するには,
コンピュータプログラミングを使う.幾何学[形]の理解は,デザインと建設プロセスに直結する.
建築家でなく数理科学の専門家なのか?SMGメンバーの8人中7人が,プロの建築家だが,
専門的知識は,複雑な幾何学,環境シミュレーションからパラメトリックなデザイン,
コンピュータプログラミングにまで及んでいる.
グループの8番目のメンバーはエンジニアで,主プログラマーである.
こみいった数学に基づき,物理的特徴をモデリングするとなれば,
チームはしばしば専門コンサルタントを使う.”チーム内で予備的な解析を行う.
もしさらに知りたければ,別の解析を行う.我々は,専門コンサルタントとデザイナー間の接点となる,
”Petersは説明する.純粋数学,幾何学は如何? どれぐらい複雑なのか?
"オフィスに1Aレベルの本がある. ” とDe Kestelierが語る.結局のところ,
それはすべて建設可能な構造を作ることに関わり,古典幾何学を越えるものはここでは用いない.
SMG の大部分の活動には数学が付随しているのだが,彼らのデザインとは,
仕事に対して制限を与えるものであるとPetersとDe Kestlierは主張する.
"悟るべき重要なことは,我々はアーキテクチャで働くプログラマーではなく,
プログラミングをするアーキテクトだということだ,”De Kestlierは語る.
Ptersは同意する:”我々の主な仕事はモデリングではない.
プロジェクトのパラメータは何かを理解し,噛み砕き定義できる規則にする.
我々は,何処に適応性があり何処に制限があるかを理解できるようにする.
”制限の最適化と建設可能な物体の創造.もちろん,建築家はいつもそうしてきたし,
PetersとDe Kesteierも建築の仕事は本質的には変わっていないと思っている.
現代のデジタルツールにより,今日の建築家は,
過去の世代には夢であったデザインオプションの領域も探索できるようになっただけだ.
形と模様,科学とコンピュータの言語として,これらのツールを譲渡処分にしたのは数学だ.
数学は,確かにその料金を取り戻している. (訳:谷克彦)
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Xavier(左)とBrady(右)はFoster+Partnersのモデリング専門家メンバーである.
プラスは,ロンドンの数学と芸術ブリッジ会議(2006年)で,二人に出会った.
ブリッジ会議の詳細はウエブサイトにある.
著者:Marianne Freiberger(プラス編集者)

◆編集後記
019号はa,bで完結です.ところで,
ガーキンに良く似た超高層ビルが新宿にあります.2008年に完成した
東京モード学園が入っているコクーンタワーです.コクーンとは繭のことですが
どちらかというとセミに似ているビルです.設計は丹下都市建築設計です.
新宿で大変目立つビルです.写真は以下のブログにあります.

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