ゆとり教育

■ゆとり教育は2002年から実施され2008年に終わりました.学力低下の弊害などが指摘されています.しかし,その理念は競争社会へのアンチテーゼであり,望ましいことでした.「総合的な学習の時間」が作られ,豊かな学習プログラムが可能になり,私なども全国各地の学校に行き万華鏡の授業をしました.子供達には楽しいイベントになり,ほんの少しは数学に興味を持ったでしょう.面白いところだけやる一回きりの授業ですから,毎日授業をしている先生方にはずいぶん迷惑をかけたのではないかと思います.
■ゆとり教育では,少数点以下1位の数までしか使わないとか,円周率は3にするとかがよく例にされます.これは,計算を簡単にして,主題の問題に思考を集中するためなのでしょうが,数字の概念を歪めてしまう欠点があります.数直線上の点は連続で,実数に対応します.「実数」という述語はまだ使わないとしても,将来出会う概念の準備をしたい.「整数」は「実数」のうちの特別なもの.「実数」には分数で記述できる有理数と,分数では記述できない無理数があること.円周率は無理数であることに気づくときがいずれ来ます.自分の知っていた数が属する広い数の世界の体系に感動するでしょう.円周率が整数であるかのような単純化は有害です.

ゆとり教育が終わり,新指導要領とのことですが,分数は分母が2の冪乗のものと,その他の数の場合とは,別々の年度で教えるそうです.2の冪乗は丸いピザの分割で説明しやすいというのがその理由だそうです.しかし,分数の定義では何等分でも一貫したやり方が,概念の把握を明確にします.わかり易くしようとして,数学概念をゆがめるのは有害です.
■さて,ゆとり教育の始まる以前の80年代から,理数科離れと学力低下は始まっていたようです.このような社会風潮は,90年代に始まる産業の空洞化と無縁ではないと思います.報われない技術者と社会の数学軽視の風潮,両親の数学軽視は子供の理数科離れを生み,産業の空洞化はさらにその傾向を加速する負のスパイラルになりました.1990年に世界1位になった日本の半導体技術の凋落ぶりは今や見る影もありません.グローバル企業による属国化,規制撤廃は民主主義の破壊へと向かっています.⇒理数科離れと産業空洞化

■1989年のレーガン宣言ではじまった米国の数学月間活動MAMは,万学の基礎である数学へ関心をもち,産業力の低下を防ぐことを国民に呼びかけます.2017年から,大量データの時代に適応して

数学統計学月間MSAMになりました.学校のカリキュラムと異なる豊かな数学を楽しむ国民数学祭NMFや,数学サークル活動,これを補完する数学の月曜日活動もあります.これらの活動の併用により,能力別数学教育(日本のゆとり教育の欠点は,画一的な実施にあったと思います)の効果が出ているようです.