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立体万華鏡

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立方格子の空間を見る万華鏡は,立方体の単位胞内の対称面を鏡に選び4枚鏡の万華鏡を作ります.
立方体にある対称面には立方体の正方形面に平行なものや,正方形の面と45°方位のものがあります.
上図の万華鏡では,(1)△ABC,△ABO,△ACO,△BCOを鏡映面にした万華鏡,(2)△ACO,△ACD,△AOD,△DCOを鏡映面にした(1)の半分体積の万華鏡,(3)△ABO',△ABO,△AO'O,△BO'Oを鏡映面にした(1)の2倍体積の万華鏡を示しました.それら3つの万華鏡の作製と映像の記事は別項

これらは,3次元ユークリッド空間の「立体万華鏡」の例です.(上の写真は「美しい幾何学」p.47より引用)

ここでは,ユークリッド空間だけでなく,非ユークリッド空間(球面・楕円幾何,双曲幾何)の3角形面を用いた多面体についてまとめて数学の話をします.

正多面体の面のなす角(二面角)の話から始めます.凸正多面体Mとその頂点の1つを中心とする小球がよぎる線は,凸球面正多角形を形成します.
頂点から$${q}$$本の辺が出ているとすると,凸球面多角形の頂角(辺の二面角)の和は$${π(q-2)}$$よりも大きい.
正多面体Mのすべての二面角が$${π/2}$$を超えない(たとえば,コクセター多面体)場合,各頂点から出る辺は3本だけであることがわかります.この最後の性質を持つ多面体を単純多面体と呼びます.4面体や立方体は単純多面体ですが,8面体は単純多面体ではありません.

しかし,この単純な不等式だけでは,凸多面体の二面角の関係を網羅することはできません.最も単純なMが三角錐の場合について考えてみましょう.その面に番号をつけ,$${i}$$ 番目と$${ j}$$ 番目の面のなす角を $${α_{ij} = α_{ji } }$$ とします.ユークリッド三角錐の二面角が次の関係にあることは,線形代数によって簡単に証明できます.

$$
\begin{vmatrix}
1 & -\textrm{cos}\alpha _{12} & -\textrm{cos}\alpha _{13 } &
-\textrm{cos}\alpha _{14 } \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{12} & 1 & -\textrm{cos}\alpha _{23} &
-\textrm{cos}\alpha _{24} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{13} & -\textrm{cos}\alpha _{23} & 1 &
-\textrm{cos}\alpha _{34} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{14} & -\textrm{cos}\alpha _{24} &
-\textrm{cos}\alpha _{34} & 1
\end{vmatrix} =0
$$                                                

左辺の行列式は,ピラミッドの面に対する単位法線ベクトルのグラム行列式[ベクトルの内積が成分]で,0に等しいのは,これらのベクトルが線形従属であることによります.

注)二面角を$${α}$$とすると,対応する面の法線ベクトルの内積は,$$\textrm{cos}(π-α)=-\textrm{cos}α$$となります.
試しに,ユークリッド三角形とすると,$${α_{12}=α_{1}, α_{13}=α_{2}, α_{23}=α_{3 } }$$ になり,

$$
\begin{vmatrix}
1 & -\textrm{cos}\alpha_{1} & -\textrm{cos}\alpha_{2} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha_{1} & 1 & -\textrm{cos}\alpha_{3} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha_{2} & -\textrm{cos}\alpha_{3} & 1
\end{vmatrix} =0
$$

この簡単な場合からは,$${α_{1}+α_{2}+α_{3}=π}$$ が得られます.

証明(Andreevより)

$$
\begin{vmatrix}
1 & -\textrm{cos}\alpha _{1} & -\textrm{cos}\alpha _{3} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{1} & 1 & -\textrm{cos}\alpha _{2} \\[0mm]
-\textrm{cos}\alpha _{3} & -\textrm{cos}\alpha_{2} & 1
\end{vmatrix} =1-\textrm{cos}^{2}\alpha _{1}-\textrm{cos}^{2}\alpha _{2}-\textrm{cos}^{2}\alpha _{3}+2\textrm{cos}\alpha _{1}\textrm{cos}\alpha _{2}\textrm{cos}\alpha _{3} \\ 
=-4\textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{\alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{2}+\alpha _{1}+\alpha _{3 } }{2} \right) \textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{3}+\alpha _{1}+\alpha _{2 } }{2} \right)
$$

$$
=\begin{cases}
>0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}>\pi \\[0mm]
=0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}=\pi \\[0mm]
<0 & \Longleftrightarrow & \alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3}<\pi
\end{cases}
$$

なぜならば,
$${0<\alpha _{1}, \alpha _{2}, \alpha _{3}<\pi /2}$$なので,$${-\pi <-\alpha _{i}+\alpha _{j}+\alpha _{k}<\pi}$$,$${\textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{-\alpha _{i}+\alpha _{j}+\alpha _{k } }{2} \right) >0}$$であり,
従って,式の$${ \pm }$$は,$${\textrm{cos}\left( \displaystyle \frac{\alpha _{1}+\alpha _{2}+\alpha _{3 } }{2} \right) }$$の$${ \mp }$$で決まる(複合同順).

始めに示した関係式は,先に導いた不等式と合わせて,二面角$${α_{ij } }$$を持つ三角錐がユークリッド空間に存在するための必要十分条件となります.これを利用すると,二面角が$${π/}$$整数であるユークリッド空間の三角錐をすべて求めることができ,その数は3つです.図7で,マークのない辺の二面角は$${π / 2}$$,マーク|あるいは||のついた辺の二面角は,それぞれ,$${π / 3}$$または$${π / 4}$$です.図7のピラミッドのうち,1つ目のピラミッドを対称面によって切断すると2つ目のピラミッドが得られ,2つ目のピラミッドを対称面で切断すると3つ目のピラミッドが得られます.

 

 

 

 

 

3次元ユークリッド空間には,この3つの万華鏡のほかに,ある意味で2次元に還元された万華鏡が4つだけあります.これは、直角プリズム(3角柱)の底面が2次元の万華鏡であるものです.

3次元ユークリッド万華鏡は,結晶学と密接な関係があります.このような万華鏡の中にいくつかの原子を配置し,万華鏡の壁で繰り返し反射させ得られる像をすべて調べると,結晶格子を得ることができます.つまり,図7に示した万華鏡のうち,1番目の万華鏡で,炭素原子Cを図に示した2つの頂点に置くとダイヤモンドの結晶格子が得られ,2番目の万華鏡で,ナトリウムNaと塩素Clの原子を図に示した頂点に置くと,食塩の結晶格子が得られます.

3次元球面上の万華鏡をすべて見つけることも難しくありません.このすべてが,球面三角錐です.この場合,ユークリッド平面から球面に移るとき,三角形の内角の和が$$π$$より大きくなるので,始めに示した式の等号が不等号$$>$$に置き換えられます.

引用:
E. B. Vinberg, published in the "Soros Educational Journal" (1997, No. 2)
«КВАНТ» No6, 2020