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クンデカリ

クンデカリKundekariという技術は,接着剤も釘も使わず木のピースを組み立てていく技術です.イスラム模様の装飾のある説教壇(minbar),ドア,家具に用いられます.12世紀にアナトリア地区で生まれたこの技術は,その地のセルジューク帝国,オスマン帝国時代に洗練されました.杉,薔薇,梨,クルミ,黒檀,リンゴなどの木材が使われます.木材ピースを溝とホゾで組み立てるので.各ピース間は2~3mmのギャップがあり,それぞれのピースの膨張伸縮で歪みが生じることがありません.接着剤や釘で固定された作り方よりも,湿気などに対する耐久性があり,ひびが入らず700年持つといわれます.ジャーミイのドアは,5cm位の多くのパーツをクンデカリの技術で組み立てています.そしてさらに,このドアーを構成する木材ピースの総数は,数秘術的な意味があるそうです.
⇒数秘術的な意味については,アラビア文字のアブジャド数に続く.
(参考文献)クンデカリについては,Mugla Journal of Science and Technology, Vol2,No2,2016,110を引用

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機械設計と数学

機械設計(日刊工業新聞社)1月号のSekkeiBookReviewに拙著「美しい幾何学」を取り上げてくださいました.本の狙いをよく理解いただいたようで工学分野で読まれるのは嬉しいです.
この雑誌は専門書なので初めて手にしますが,回転ステージやDCモーターなど,会社でX線反射率測定装置を作ったとき購入したものも色々載っていて懐かしいです.ロボットの分野はずいぶん進み洗練されましたね.

以下の記事が目につきます.これらは数学とも無縁ではありません.
・「歯車装置の設計計算」→表計算ソフトで歯車の歯切りに使うピニオンカッタのトコロイド曲線を描く.

・「Mathcad学ぶで力学解析」→Mathcadは数式通りの記述で計算ができるので,私も初期のMathcadを個人購入し(初期の頃はMathematicaに比べかなり安かった)愛用していたことがあります.いまはMathcad prime6.0になったようです.

・「鳥はなぜ飛べるのか」→非常に興味深い.翼まわりの渦輪など解析をしていますが,難しい流体力学なのでまだ読めていません.

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数学書として憲法を読む

12月4日の夕方から秋葉忠利さんの「数学書として憲法を読む」の出版記念パーティがありました.100人ほど集まり楽しいパーティでした.田中康夫さんや阿部知子さんも来られました.おりしも,PISAテストで15歳の読解力の低下が指摘されています.国民もマスコミも読解力のない社会になりました.論点を次々にずらしたり,揚げ足取りで本論から逸脱させたり,部分否定と全否定をすり替えたり,必要条件と十分条件を区別しなかったり,みな詭弁への道で,まともな議論になりません.論旨を素直にとらえて,正面から議論する当たり前のことが通じない社会になりました.特に,国会やマスコミの報道でこのようなまともな論理の劣化が気になります.

読解力は,読書をしたり話を聞いたりして自然に身に着くものです.私の子供の頃は,落語のラジオ放送を聞く毎日でしたが,まとまった話を最後まで聞くというのは,読解力を身に着けるための良い訓練であると思います.

論理的な普通の読解力で(いかめしく言うと数学的に)憲法を読むというアイデアは画期的な問題提起です.
秋葉さんの本の一読をお勧めします.この本は以下の様に憲法を舞台にしていますが,何の分野でも正しくあるがままに理解するということは重要なことです.

■改憲不可条項
憲法にある「義務」,「尊重」などの単語,特に,「永遠」,「永久」といった「絶対性」をもつ単語を,素直に受け入れ(「義務」という言葉は素直に法的義務と読むべきなのに,都合の悪いところになると道義的要請とよむ「憲法マジック」は詭弁の入り口),「全部否定」と「部分否定」,「必要条件」と「十分条件」との違いを峻別できないと,詭弁に引き込まれます.この他に,憲法に書かれていないこと(あるいは,他の文献)に依存せず,憲法全体は,無矛盾・自己完結するなど,9つのルール(9大律)を設定し,憲法の条文を公理に見立て,論理的な結論となるいくつかの「定理」を導きました.

「永久に」,「国民の総意」,「不断の」などの絶対的な表現と関連がある8つが「改憲不可条項」に当たります.改憲禁止の条項とは明示されてはいないが,論理的にそのような結論になる条文が8か条あるということです.この8か条も含めて,改正の対象にならない条文は30か条を超えることが示されました.改憲の手続き規定である96条は改憲のための必要条件に過ぎないわけです.時間的な極限を表す言葉,「永久に」が使われている9条を変えて,1946年以降の有限時間内のある時点で「戦争をすることが可能になる」ようにすることは,「永久に」という言葉に反します.したがって,9条を「改憲」することは憲法違反になります.

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アラビア文字のアブジャド数

 

アラビア文字の各文字は数を割りあてられています.このシステムのことはアブジャドabjadと呼ばれ,十進法のインド数字が採用される以前は数値を表現するのに使われていました.また,単語や文章の数値はシンボリックな意味があります.
例えば,「アッラー」は66,このアナグラムの「ラーレ(チューリップ)」も66で,同じ数値ですので,チューリップ模様はジャーミイの装飾に使われます.

クンデカリを構成するピースの数も意味があります.例えば,ドアの文様を構成するセグメント数の165ピースは,「アッラーのほかに神はいない」を意味するそうです.

■私はアブジャドのことは聞きかじっただけで,正確な記述ではないかもしれません(アブジャドのことをご存知の方教えてください).
私の理解した考え方だけおおざっぱに述べると,アラビア語でも,アルファベット(英語)で計算する数秘術のように,単語(スペル)の文字の数値を総計し,その単語の数値が決まります.ただし,数値を対応させるのはアブジャドに対してで,アラビア文字そのものに対してではないそうです.

(注)世界には,ギリシャ文字(ラテン文字,キリル文字,...),漢字,アラビア文字,などいろいろありますが,アラビア文字は子音を表記する文字に母音も含めるようで,文字も独立の場合と単語の中に使われる場合で異なるようです.漢字や速記文字なども記号全体で一定の意味もつのに似ています.単純なアルファベットではなくアブジャドという文字体系に数字を対応させます.

 

■クンデカリ技術で作られたドアを構成するピース数の意味

以下の写真のドアの文様の数値227は,次のようにして数えるそうです.この数値のシンボリックな意味は知りません.

面積1の正方形の数14個 →1x14=14
面積2の長方形の数11個 →2x11=22
面積3の長方形の数13個 →3x13=39
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   (全図形数)38個     75(全面積)
         x4
      -----
 (枠のピース数)152 +(面積数)75 =227(全ピース数)

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ジャーミイ・バザーの万華鏡ワークショップ

11月30日は東京ジャーミイのチャリティ・バザーの一環として万華鏡のワークショップを行いました.3クラス実施し,
66人の材料を使い切りました.新館の3Fの工事が終わったばかりの美しい部屋のHouse-warming partyになりました.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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作製する万華鏡

万華鏡の鏡室となる3角形は,頂角が15°の2等辺3角形です.従って,鏡室は(15°,82.5°,82.5°)ですから,分数解(12,24/11,24/11)の万華鏡になります.確かに,1/12+11/24+11/24=1 ですから,条件を満たす分数解であることがわかります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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万華鏡のワークショップ

今週の土曜日(11月30日)は東京ジャーミイで万華鏡のワークショップをやります.これは東京ジャーミイのチャリティ・バザーの一環として実施されます.お近くの方は参加されることをお勧めします.詳細や参加申し込みは,以下の東京ジャーミイのウエブサイトをご覧ください.
https://tokyocamii.org/ja/event/1787/?fbclid=IwAR2JXV3GaFx5ruXfPabGC-reuY7VPFNKq1LPXtLpgdltl4hijMo0hT1Ot8I

■万華鏡の原理
平行な合わせ鏡の間に置いた物体は,物体像と鏡像のペアが無限に繰り返す市松模様を生じます.2枚の合わせ鏡が平行でなくθの角度で交差する場合は,一次元の市松模様は円周に沿って並びます.円周の向こう側で市松模様がきれいにつながる条件は,360/2θ=n(整数)です.これは,万華鏡を発明した物理学者ブリュースターの特許(1817年)に書いてあります.

3枚鏡が3角形をなす場合は,3角形の各頂点でこの条件が成り立つので
1/n+1/m+1/p=1,(2=<n,m,p)が,平面がきれいな市松模様になる条件です.この条件を満たす3角形は図に示す3種類しかありません.

これだけではつまらないので,分数解も許すことにすれば,解は無限にあります.このような分数解の万華鏡は,平面の所々で市松模様が破綻しますが,やはり美しいものです.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続く

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ジャーミイの模様の幾何学~美しいものには理由がある~(下)

■イスラーム模様の特徴 ➡亜群

イスラーム模様の特徴は,局所的に対称性の高い星型ロゼットがちりばめられていることです.平面群で存在が許される回転対称は,2,3,4,6回に限られ,5回や,7回以上の回転対称は周期性と両立できません.その理由は正5角形のタイルや正7角形以上のタイルは平面を隙間なく埋めることができないからです.

イスラームの繰り返し模様中に,高い対称性(9回とか10回とか12回など)のロゼットをよく見かけますが,これらの対称性は各ロゼットの内部だけで,全域を支配することはあり得ません.そのため,対称性が高そうに見えても,平面群(17種類ある)のどれかに割り当てざるを得ないのです.

イスラームの特徴的な模様を,平面群で分類するのではなく,もっときめ細かい対称性の記述はできないものでしょうか? 群ではなく,亜群(1926)や混群という代数系などが提案されていますが,その発展が行き詰っているのは残念なことです.

 

■高次元の周期的な世界から2次元の世界への影 ➡高次元格子からの射影

 

イスラーム模様を高次元の周期的空間からの2次元平面への影であると解釈する方法もあります.

周期性のないPenroseのタイル張り(1976)を,このような方法で作ることもできます.

左図は,周期的な2次元世界から1次元世界への射影で,2次元世界で存在した周期性が失われる事例です.5次元の周期的空間[3次元や2次元の周期的空間には存在できない5回対称軸が存在可能]を,2次元平面に射影すると,5回対称のロゼットを作れますが,5回対称性はロゼットの内部だけで2次元平面での周期性は壊れます.イスラーム模様にちりばめられた高い対称性の星型ロゼット(高次元空間からの影)を見ていると,高次元の宇宙の中に自分が存在する世界があることを実感し,不思議な気分になります.

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