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極性ベクトル軸性ベクトル

座標系を反転すると,右手系で見た座標値$$(x_{1}, x_{2}, x_{3})$$が左手系で見た座標値$$(x_{1}'=-x_{1}, x_{2}'=-x_{2}, x_{3}'=-x_{3})$$に変わります.

座標系の反転で,座標成分の符号が変るのが,極性ベクトル(変位,速度,力,運動量など);
座標成分の符号が変わらないものが軸性ベクトル(角速度,角運動量,モーメントなど)と言われます.
軸性ベクトルとは,2つの極性ベクトル間の外積で定義されるものです.

軸性べクトルは,座標系の反転で座標成分の符号が変わらないというのは本当でしょうか?
納得できないので,これを確かめてみましょう.

■ 右手系と左手系基底の定義 
2つの正規直交基底$$ \left[ e_{1}, e_{2}, e_{3} \right] $$,および,$$\left[ e_{1}', e_{2}', e_{3}' \right] $$があるとします.
正規直交基底は, $$e_{i} \cdot e_{j}=\delta _{ij}$$, $$e_{i} \times e_{j}=-e_{j} \times e_{i}$$, $$e_{i} \times e_{i}=0$$が成立ちます.
右手系では, $$e_{2} \times e_{3}=e_{1}$$,$$e_{3} \times e_{1}=e_{2}$$,$$e_{1} \times e_{2}=e_{3}$$ が成立します.
空間反転$$e_{1}'=-e_{1},e_{2}'=-e_{2},e_{3}'=-e_{3}$$して得られる基底$$\left[ e_{1}', e_{2}', e_{3}' \right] $$では, 
 $$(-e_{2}') \times (-e_{3}')=(-e_{1}'),(-e_{3}') \times (-e_{1}')=(-e_{2}'),(-e_{1}') \times (-e_{2}')=(-e_{3}')$$
すなわち,$$e_{3}' \times e_{2}'=e_{1}',e_{1}' \times e_{3}'=e_{2}',e_{2}' \times e_{1}'=e_{3}'$$が得られます.この座標系は左手系になります.

■ 位置ベクトル,運動量ベクトル(ともに極性ベクトル)を,右手系と左手系で標示すると,
位置ベクトル:$$r=x_{1}e_{1}+x_{2}e_{2}+x_{3}e_{3}=x_{1}'e_{1}'+x_{2}'e_{2}'+x_{3}'e_{3}'=-x_{1}e_{1}'-x_{2}e_{2}'-x_{3}e_{3}'$$
運動量ベクトル:$$p=p_{1}e_{1}+p_{2}e_{2}+p_{3}e_{3}=-p_{1}e_{1}'-p_{2}e_{2}'-p_{3}e_{3}'$$
このように,極性ベクトルの座標値は,座標系の反転で符号を変えることがわかる.

■ 角運動量ベクトル(軸性ベクトル)を,右手系と左手系で標示する.
$$L=r \times p=\left( x_{1}e_{1}+x_{2}e_{2}+x_{3}e_{3} \right) \times \left( p_{1}e_{1}+p_{2}e_{2}+p_{3}e_{3} \right) =$$
$$=-x_{2}p_{1}e_{3}+x_{3}p_{1}e_{2}+x_{1}p_{2}e_{3}-x_{3}p_{2}e_{1}-x_{1}p_{3}e_{2}+x_{2}p_{3}e_{1}=$$
$$=\left( x_{2}p_{3}-x_{3}p_{2} \right) e_{1}+\left( x_{3}p_{1}-x_{1}p_{3} \right) e_{2}+\left( x_{1}p_{2}-x_{2}p_{1} \right) e_{3}=$$ 
$$=-\left( x_{2}p_{3}-x_{3}p_{2} \right) e_{1}'-\left( x_{3}p_{1}-x_{1}p_{3} \right) e_{2}'-\left( x_{1}p_{2}-x_{2}p_{2} \right) e_{3}'$$
最後の式で基底を反転している.左手系での座標値は,右手系の座標値の符号を反転したものになる.
$$e_{2} \times e_{3}=e_{1} \longrightarrow \left( -e_{2}' \right) \times \left( -e_{3}' \right) =\left( -e_{1}' \right)  \longrightarrow e_{3}' \times e_{2}'=e_{1}'$$

■(結論)
座標系の反転(右手系基底[$$e_{1}, e_{2}, e_{3}$$]$$ \longleftrightarrow $$左手系基底[$$e_{1}'=-e_{1}, e_{2}'=-e_{2}, e_{3}'=-e_{3}$$]
をしたときに; 
(1) 極性ベクトルは,
反転後の基底についての座標値は,反転前の基底に対する座標値の符号を変えたものになるが,基底自体も反転しているので実態は変わらない.
(2) 軸性ベクトルは, 
反転後の基底についての座標値は,反転前の基底に対する座標値の符号を変える.軸性ベクトルは外積で定義された向きを持つが,座標系が左手系であっても外積の定義は右手系でなされているので,左手系では向きを変える.

しかし,実態は回転現象でありこの状態が変わるわけではない.

$$e_{1}$$だけ反転(鏡映対称):奇数パリティ⇒$$x_{1}$$だけ符号反転
$$e_{1}, e_{2}$$の2つを反転($$e_{3}$$を軸とする2回対称):偶数パリティ⇒符号の変化なし
$$e_{1}, e_{2}, e_{3}$$の3つを反転(対称心:奇数パリティ)⇒すべての座標値の符号を変える

 

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