結晶学用語集(1)ー結晶空間群早わかりー

投稿日時: 01/31 システム管理者

1.空間群[space groups: Пространственные (федоровские) группы]
  結晶構造における対称操作の集合が作る群を空間群という. 3次元の空間群が230 種類あることは,1880年代に,フェドロフ,シェンフリーズ,バーロー(Fedorov, Schoenfles, Barlow)らにより,それぞれ独立に導かれた. 
空間群$$\mit\Phi $$には,並進群$$T$$ [並進操作の集合が作る群: ねじれのないアーベル(Abel)群]が, 正規部分群[$$T \vartriangleleft \mit\Phi $$]として必ず含まれている. 従って,商群$$\mit\Phi /T$$が存在し,これは 結晶点群の一つ$$G$$と同型(isomorphism)[$$\mit\Phi /T \cong G$$]になる. つまり,空間群$$\mit\Phi $$は, 並進群$$T$$を,結晶点群$$G$$ [または,$$G$$中の回転軸,鏡映面の一部あるいは全部を,それぞれ,らせん軸,映進面でおきかえて得た$$G$$と同型な群$$G^{T}(\textrm{mod}T)$$]により,拡大して得られる.らせん軸や映進面を全く含まぬ点群$$G$$で拡大して得た空間群は,共型(symmorphic)群といわれ7 3種類, らせん軸や映進面を含む群$$G^{T}(\textrm{mod}T)$$により拡大 て得られた空間群は,非共型(nonsymmorphic)群といわれ15 7種類ある.
空間群の対称操作の記述には,ザイツ(Seitz)演算子$$\left[ A|t \right] $$が用いられる. これによると ,位置ベクトル$$r$$に対称操作$$\left[ A|t \right] $$を作用させた結果は,$$\left[ A|t \right] r=Ar+t$$と定義される.
空間群の記述には,ヘルマン=モーガン(Hermann=Mauguin)の記号から発展した国際記号が広く用いられて いる.

2.結晶系[syngonies, crystal system: сингонии, кристаллические системы]
  結晶構造の対称性は,230種の空間群のうちの一つで記述できる. 結晶構造の特徴 は,3次元空間の周期性(=結晶空間)にあるのだから,どの空間群にも並進群が部分群(正確には正規部分群)として含まれている. この並進群の具体化(幾何学的表現)が結晶格子である. 結晶格子を,格子点のまわりの対称性(点群)で分類すると,$$\bar{1}$$(三斜格子), $$2/m$$(単斜格子), $$mmm$$(斜方格子), $$4/mmm$$(正方格子), $$\bar{3}m$$(三方格子 ), $$6/mmm$$(六方格子), $$m3m$$(立方格子)の7種になる.
一般に,結晶構造の点群は,その結晶構造がもつ結晶格子の点群よりも高い対称性をもつことはない. 従って,結晶構造の対称性を記述する32種の結晶点群を,その結晶点群が部分群として含まれるような格子の点群のうちの位数が最小なものに帰属させることができる. このような分類が結晶系である. 各結晶系で最も対称性の高い点群は,格子の点群で,これは完面像[holohedry, ]である. 7つの晶系の名称は,格子の名称と同じで,(表1)に各晶系に属する結晶点群をリストアップしておく.
  各結晶系の結晶軸$$a, b, c$$のとり方は,単位胞の3本の稜の方向で,格子定数$$a_{0}, b_{0}, c_{0}; \alpha , \beta , \gamma $$と(表2)の関係にある.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

              (表1)                       (表2)

 

3.ブラベー格子[Bravais lattices : Решетки Бравэ]
  結晶は3次元空間に周期をもって規則正しく繰り返される内部構造を特徴とする. 従 って,結晶構造を自分自身に重ね合せる(合同変換)対称操作には並進操作があり,これらは並進群を作る.並進群に従って,代表点(“格子点”となるモチーフ)を配列させて得られる並進群の具体化は結晶格子と呼ばれる. 結晶のすべての並進群は,抽象群の立場からは同 型であるが,得られた結晶格子の空間的な対称性(空間群)で分類すると,3次元の結晶格子は14の異なる型になることがブラベー(Bravais) (1849)により導かれた. これをBravais格子という. 格子点における点群を調べると,14種のBravais格子は,$$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/mmm, 3m, 6/mmm, m3m$$の7種の点群に帰属できる. これらは ,三斜,単斜,斜方, 正方, 三方, 六方, 立方の各格子に対応する. 単位胞中に一つの 格子点を含むものは$$P$$(単純)格子, 複数の格子点を含むものは複合格子といい,$$I$$(体心)格子, $$F$$(面心)格子, $$C, A, B$$(底面心)格子, および,$$R_{\textrm{hex } }$$:(六方から導い た菱面体)格子がある. 14のBravais格子 の内訳を図示する. 
図挿入

3.1. 体心格子[body-centered lattice: решетка объемно-центрированная ] 
  結晶格子(空間格子)の一つ. 斜方, 正方, 立方のブラベー格子に存在する複合格子.単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,その中心にも格子点が存在するもの. 記号は$I$で示す. 単斜格子での体心格子は底面心格子と見なすことができる. 

3.2. 底面心格子[base-centered lattice: решетка базоцентрированная ]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 単斜, 斜方のブラベー格子に存在する複合格子. 単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,向かい合った一組の面の中心にも格子点が存在する もの. 格子点を追加した面を重ね合わせる並進方向が$$a$$軸のものを$$A$$面心, $$b$$軸のものを$$B$$面心, $$c$$軸のものを$$C$$面心という.

3.3. 面心格子[face-centered lattice: решетка гранецентрированная]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 斜方, 立方のブラベー格子に存在する複合格子. 単位胞となる平行6面体の各頂点の他に,それぞれの面の中心にも格子点が存在するもの. 記 号は$$F$$で示す.

3. 4. 単純格子[primitive lattice: решетка примитивная]
  結晶格子(空間格子)の一つ. 複合格子(体心, 面心, 底面心)に対立する用語. 平行6面体の頂点のみに格子点を持つようにとったブラベー格子. どの晶系にも単純格子が一つづつ存在する.ただし,三方晶系では,単純格子$$R$$を用いずに,六方晶系の単純格子に2つの格子点を追加した複合格子$$R_{\textrm{hex } }$$を用いることが多い. その他の単純格子は$$P$$で示される.
  格子の対称性が一目でわかるように,ブラベー格子では複合格子がいくつか用いられているが,複合格子は,適当な平行6面体を採用すれば,すべて単純格子に直すことができる(格子の定義から明らか).

4.実格子[lattice in realspace: решетка пространственная (кристаллическая) ]
  結晶は3次元空間に周期をもつ構造である. 各周期を表す互いに独立な3本の並進べ クトル$$a_{1}, a_{2}, a_{3}$$は並進群を生成する. 代表点をこの並進群に従い分布させると結晶 格子(空間格子)が得られる. 結晶空間(実空間)とそのフーリエ(Fourier)変換である逆空間は, 互いに双対な空間であるので,逆格子に対する概念として結晶格子をとらえ,実格子と呼ぶことがある. 

5.ラウエ群[Laue groups: Группы Лауэ, лауэвские классы ]
  単結晶のX線回折強度像の対称性を表わす点群のことである. ピエール・キューリー(Pierre Curie)の原理(あるいは,NMC原理)として知られる因果律によると,「結晶で観測される物理現象の対称性(結果 )には,その舞台となる結晶構造の対称性(原因)がすべて反映されるはずである」. 従って,結晶構造の点群を$$G_{\textrm{cryst } }$$,この結晶によるX線回折強度像の点群を$$G_{\textrm{X } }$$とすると,$$G_{\textrm{cryst } } \subseteq G_{\textrm{X } }$$とな る. これは,結晶構造に存在しない対称要素でも,その結晶のX線回折強度像の対称性に出現することがあることを示している. 実際,結晶構造が特別な条件を満たせば,X線回折強度対称が,上昇することが知られている. しかし,どのような結晶構造であろうとも,異常分散がない限り,X線回折強度像の対称性には,必ず$$\bar{1}$$ (対称心)が存在することは,フリーデル(Friedel)則として知られているから, X線回折強度像の対称性は,結晶点群のうち$$\bar{1}$$を部分群として含む11の点群
$$\bar{1}, 2/m, mmm, 4/m, 4/mmm, \bar{3}, \bar{3}m, 6/m, 6/mmm, m\bar{3}, m\bar{3}m$$のどれかに限られる.これらをLaue群という. ある結晶によるX線回折強度像の対称性が,Laue群$$G_{\textrm{X } }$$であれば,その結晶の構造は$$G_{\textrm{X } }$$の部分群であるはずである.

6. 単位胞[unit cell:элементарная ячейка]
  結晶は,ある構造単位が3次元空間に周期をもって繰り返す構造をしている. こ の構造単位(内部の原子分布まで含めて)を単位胞という. 単位胞の形は,その結晶構造 のプラベー格子に対応した平行6面体である. プラベー格子に複合格子があるので,単位胞は必ずしも結晶構造中の最小の繰り返し単位とは限らない. 

6.1. 格子定数[lattice constants, cell dinensions: константы решетки, параметры единичные ]
  結晶構造の単位胞の寸法(ブラベー格子の寸法)を記述する数値の組. 三斜晶系の単位胞の寸法を記述するには,平行6面体の3つの稜の長さ$$a_{0}, b_{0}, c_{0} [Å] $$,および ,それらの稜のなす角度$$\alpha , \beta , \gamma $$の独立な6つのパラメータが必要である. ブラベー格子の対称性が高くなると,記述に必要なパラメータの数は少くなくなり,立方晶系では$$a_{0}[Å] $$のみとなる.

7.対称要素[symetry elements: элементы симметрии ]
  点群や空間群の要素となっている個々の対称操作のこと. ただし,ある物体の対称操作とは その物体を自分自身に重ね合わせる合同変換のことである. 結晶点群の対称要素には,回転軸, 鏡映面, 回映軸, 回反軸, 対称心がある.空間群になると並進があるので,この他に,らせん軸, 映進面が加わる.
対称要素の記述には,ヘルマン=モーガン(Hermann = Mauguin)の記号が用いられる.また,図面中に対称の要素を記入するには,定められたシンボルをもちいるが,詳細は,International Tableに掲載されている. 

7.1. らせん軸[screw axis: винтовая ось ]
  一つの軸のまわりの回転$$C$$と,その軸に沿っての並進$$\tau $$を連続して行なう空間群の対 称操作.回転とその回転軸方向の並進はどちらを先に行なっても結果は同じである.ザイツ(Seitz)記号で表すと$$\left[ C|\tau \right] $$. 回転操作$$C$$の位数を$$n, \left( C^{n}=1 \right) $$とすると,$$\left[ C|\tau \right] ^{n}=\left[ 1|n\tau \right] $$であるので,らせん軸が空間群の対称操作であるためには,$$n\tau $$が回転軸方向の基本並進$$T$$の整数倍となる必要がある. このため,$$\tau =\left( m/n \right) T $$ [$$m$$は,$$m<n$$なる自然数]という制限が生じる. $$n$$回回転操作から生じるものを$$n$$回ら せん軸と呼び,$$n_{m}$$と記す.例えば,$$3$$回回転軸(位数3)からは,$$3_{1}, 3_{2}$$らせん軸が生じる.

7.2. 回映軸[mirror-rotation axis: ось зеркального вращения]
点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりの回転とその直線に垂直な 平面での鏡映とを引続き行なう対称操作. このとき,回転成分の軸となる直線が回映軸である. 回映軸は回転成分が$$360 ^\circ /n$$のとき,Hermann = Mauguinの記号で,$$\tilde{n}$$と記す.
結晶構造で許される回映軸は,$$\tilde{1},\tilde{2},\tilde{3},\tilde{4},\tilde{6}$$であるが,それぞれの回映軸が 生成する巡回群(生成元となった回映軸と同じ記号を用いる)を調べると,$$\tilde{1}=m, \tilde{2}=\bar{1}, \tilde{3}=3 \otimes m, \tilde{6}=3 \otimes \bar{1}$$となり,回映群$$\tilde{4}$$以外のものは,他の対称操作により生成する巡回群やそれ らの直積に分解できる. 従って,$$\tilde{4}$$だけが回映軸として独立なものである. 

7.3. 回反軸[roto-inversion axis: рото-инверсионная ось]
  点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりの回転とその直線上にある 一点での反転とを引続き行なう対称操作. このとき,回転成分に関する直線を回反軸とい う. 回反軸は回転成分が$$360 ^\circ /n$$のとき,Hermann = Mauguinの記号で,$$\bar{n}$$と記される.
  結晶構造で許される回反軸は,$$\bar{1}, \bar{2}, \bar{3}, \bar{4}, \bar{6}$$であるが,それぞれの回反軸が 生成する巡回群(生成元となった回反軸と同一の記号が用いられる)を調べると,$$\bar{2}=m, \bar{3}=3 \otimes \bar{1}, \bar{6}=3 \otimes m$$となり,他の対称要素により生成される巡回群やそれらの直積に分解される.また,$$\bar{1}$$は対称心そのものである.回反軸として独立なものは,$$\bar{4}$$のみであるが,回反軸$$\bar{4}$$が生成した巡回群と,回映軸$$\tilde{4}$$が生成した巡回群は同一になる.


7.4. 映進面 [glide-reflection plane:плоскость скольжения-отражения ]
  空間群で存在する対称操作の一つ. 平面での鏡映$$m$$と,その平面内の特定な方向(周 期$$\tau $$)に沿って$$\tau /2$$だけの並進を続けて行なう対称操作. この平面を映進面という. また,映進演算は$$\left[ m|\tau /2 \right] $$で表される. 結晶格子を生成する並進ベクトルを$$a, b, c$$とすると,$$a/2$$の並進成分をもつ映進面を$$a$$映進面; $$\left( a+b \right) /2$$や$$\left( a+b+c \right) /2$$などの並進成分をもつ映進面を$$n$$映進面; $$\left( a+b \right) /4$$や$$\left( a+b+c \right) /4$$などの並進成分をもつ映進面を$$d$$映進面という. 単純格子では,$$a, b, c$$,および$$n$$映進面のみが可能で あるが,面心格子や体心格子では,$$d$$映進面も可能になる.

7.5. 並進対称 [translational symmetry: симметрия трансляции]
  空間内のある一定の方向に,周期的に同一の基本構造が繰り返し配列しているような 状態. そのような周期をベクトル$$a$$で表示すると,並進対称をもつ構造$$F\left( r \right) $$では, $$F(n-na)=F(r)$$,($$n$$は整数)が成り立つ. あるいは,基本構造を$$A(r)$$とす ると,
$$F(r)=\displaystyle \int_{- \infty }^{ + \infty }A(r-r')\displaystyle \sum_{n=- \infty }^{ + \infty }\delta (r'-na)dV_{r'}$$  ただし,$$\delta \left( r'-na \right) $$はデルタ関数
と表す事のできる構造$$F(r)$$は,周期$$a$$の並進対称をもつ. 1次元の周期をもつ構造は ,列(array) , 2次元の周期をもつ構造は網(net) , 3次元の周期をもつ構造は格子( lattice)と呼ばれる. 結晶中の3次元の周期は,結晶格子を作る. 

7.6. 鏡映面 [mirror plane: зеркальная плоскость ]
  点群,および空間群に存在する対称操作の一つ. 物体と鏡に写った像の関係にあ る状態が鏡映対称であり,その鏡を鏡映面という. 鏡映面は,Hermann-Mauguinの記号で は$$m$$と表示される. 
$$\left[ m_{x}|0 \right] $$は,$$x$$の符号を変える鏡映面($$x$$軸に垂直な平面)である.

7.7. 対称心 [center of symmetry, inversion: инверсия]
  点群,空間群における合同変換(対称操作)の一つ. 構造内の分布状態を$$F(r)$$と し,$$F(-r)=F(r)$$が成り立つように位置ベクトルの原点がとれるならば,この原点を対称心(対称中心)といい$$\bar{1}$$で示す. 対称心が存在するような構造を点対称という. 

7.8. 回転対称軸 [rotation axis: ось вращения ]
  点群,および空間群の対称操作の一つ. ある直線のまわりに$$360 ^\circ /n$$だけ構造全体を回転しても,始めの状態と完全に合同になる場合に,この構造には$$n$$回回転対称軸($$n$$回回転軸,または単に$$n$$回軸)が存在するという. このような直線が回転軸である. 結晶構造で可能な回転軸の種類は,$$1$$(恒等変換),$$2$$,$$3$$, $$4$$, $$6$$の各回転軸に限られる.

続く➡(2)

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 ※この結晶学用語集シリーズは,辞典形式の独立項目の集合よりなる.その理由は,「物理学辞典」培風館(1984)の私の分担執筆項目より抜粋し,専門技術研修「物性と評価技術(中級)」の講座テキスト(©RICOH CO.,LTD.1993)の付録に用いたためである.結晶学用語の背景を正確に解説している書物は現時点でもほとんどないため,再度編集し直してここに掲載する.