koptsik-ch12-1

投稿日時: 02/08 システム管理者

12. 科学と芸術における対称性
保存則.物理系の対称化と非対称化.複合系に対する対称原理.
-完全系構築の法則,構造の法則を研究する手段としての対称性-

   本書を通しここまでに,実に多種多様な物質的形態-有限あるいは無限のもの,空間に周期のあるもの,あるいは連続なもの-の対称性を学習し来たった.幾何学的対象物の構造が複雑になっても,対称変換の基本的要請-図形は変形なしに自分自身上に変換される-は,常に守られていた.直交変換(回転,鏡映)と並進は,図形の計量特性を保存するので,直交群と運動群に注目した.この基本的な要請ー無変形ーは,古典群から反対称や色付対称群へ移行した前章においても,古典群から新しい群への同型写像で,色付空間の構築をしたために破られることはなかった.
   色付対称群への移行は,科学研究と芸術創造における対称性理論の概念と手法の適用可能性を著しく拡大する.考察対象物の計量特性が,変形の過程で保存されるという拘束要請を緩和すると,これらの可能性はさらに増加する.このような要請緩和により,例えば,アフィン,射影,トポロジー的な変形で,保存される図形の特性を,学ぶことが出来るようになる.言い換えれば,相当する変形で変わらない不変量の命題の集合(公理,定理,これらより導出される結果)として,アフィン,射影,トポロジー幾何を構築できる.
   考察中の幾何学空間のすべての点に,色特性量を付与,あるいは,そこでのスカラー,ベクトル,テンソル量の値を定義するなら,このようにして得られた物質空間(あるいは,スカラー,ベクトル,テンソル場)に対する一般化された結合変換の群が定義できる.これらの群を,物質的対象物の対称群と見なすのは自然である.例を一般化し,自分自身の上への写像=自己同型変換の作る最も対称性の高い群を,任意の完全系をなす構造的対象物―相対的に等価な要素で構成されている―の対称群と呼ぶ.このようにして,構造的対象物の構成の法則として,あるいは,もっと正確に,考察中の系の構造的完全さが保存される1:1変換の群として対称性を定義する.
   自然界には構造のない対象物はない.対称性の概念は,相対的に等価な,相互に結合している要素で構成される系に適用される.幾何学的な完全系の等価な要素は,定義された関係で互いに結合している点であったり,直線,平面,表面,図形であったりする.物質的対象物における等価な完全系の要素であるのは,素粒子や反粒子,-電子,陽子,中性子,等々-;位相特性のみが要素相互に異なるこれらの《色》変調;等価な原子,イオン,分子,等々;物理場の力線,等々である.これらの要素は,定義された規則で互いに結合した完全系をなす複合体(系)を形作る.そして,これら複合体はさらに複雑な物質系を構成する要素となる.
   系の不変な様相として現れる対称性カテゴリーの十分な一般化,全体を等価(何らかの関係で)な部分へ分割する原理的な可能性は,現代の自然科学および芸術における対称性概念に対する,かくも広汎な価値を有する.ここでは,物質的対象物のみならず実世界の構造を反映している概念や理論の系の対称性にも言及する.これについては,(Вейль; Weyl) ワイルの著書《シンメトリー》の序文によく記されている:「対称性は,外部とは結び付いていない物体,現象,理論:地磁気,女性のベール,偏光,自然淘汰,群論,不変性と変換,みつばちの巣箱での労働習性,空間の構成,飾瓶の絵柄,量子物理,スカラベコガネムシ,花弁,X線回折図形,ウニの細胞分裂,結晶の平衡外形[訳注:理想形のこと],ロマネスク寺院,雪片,音楽,相対論:の間の面白くも驚嘆すべき類縁関係を確立する」(Нъюмен; Newman, ノイマン,1956).
   対称性概念(つりあいの意)は,古代ギリシャの哲学者,数学者から,彼らの宇宙の調和研究と結び付き発した。調和のカノン(時代とともにその概念は変化した)に従い,古代彫刻家,画家,建築家達は,傑作を創造した.それにもかかわらず,対称性についての学問が,現代科学の形式を備えたのは,群の概念の出現(Галуа; Galois, ガロワ,1832)以降のことである。20世紀の初頭には,結晶の対称性の理論が,対象変換の古典群の形式をとり,最も精緻な発展をとげた(フェドロフ,シェンフリーズ,Федоров,Шенфлис; Fedorov,Schonflies, 1891).結晶学と結晶物理学の発展後に,群論的手法は,物理学全体や他の自然科学に適用されるに至った.対称性の手法は,現代科学の理論的研究の強力で効果的な道具となった.
   対称性手法の応用例として,結晶物理の例をとり,考察しよう.この選択は,対応する群をすでに知っていることと,フェドロフの言葉を借りれば,結晶は,原子分子レベルの物質の構造構成の多種多様性を現し《自己の対称性を閃かせる》ことによる.
結晶について成り立つ内容は,(適当な変形をすれば)対称的な内部構造を有する他の対象物にも拡張することができる.
   結晶の対称性を示す点群または空間群が実験的に決定されたら,そこで可能な物理特性の最小の対称性も決定されたと言える.特に,周知のように,点群 は結晶多面体の理想形(多面体のすべての面に結晶化物質の供給が等しく行われる条件下で,わずかに過飽和の溶液から成長した結晶はこの形)の対称性を記述できる.
   全く同様に,空間群$$Ф_{k}$$は,結晶の内部構造:単位胞中の原子の同価な系の相互配置:を記述する(p.177,192参照).
   結晶学や結晶化学での対称性は,形態的・構造的な分類記述,発生的系統や適当な特徴基準による結晶の分類統合のための基礎を与える.全く同様に物理学では,素粒子,原子分子のスペクトル,基準振動,等々の分類;これらの対称性分類は,対応する構造要素上で許容される何らかの変換群に基づいている.分類の課題は,どの科学分野でも最初の課題であり,構造不変性を見出すことのできる対称性理論は,不可欠な手法である.
   しかし,これが最も重要な側面と言う訳ではない.結晶物理でもっと重要なのは,結晶の対称要素に対し,座標系を一意に関連付けることであり,これにより,一般には測定の方向に依存する物理特性(非スカラー特性)の記述の一意性が確保される.規約(表20,p.176参照)に従い軸を選べば,方位;
$$ r=x_{1}a_{1}+x_{2}a_{2}+x_{3}a_{3} $$ または  $$ [x_{1}:x_{2}:x_{3}]=[p:q:r] $$
に沿って,結晶はこれこれの物理特性を示すと明確に特定できる.種々な結晶面(例えば,劈開面,熱膨張楕円体ellipsoid面,光学屈折率楕円体indicatrix面,等々)も,
$$ hx_{1}+kx_{2}+lx_{3}=1 $$   または  $$ (h k l) $$
により,同様に,明確に特定できる.結晶学のハンドブックには,平面の結晶学的座標$$ (h k l) $$ は,この平面の座標軸に対する切片の逆数となることが示されている.
   このようにして,同一物質の結晶の物理特性の測定は,標準様式で選定した同一の座標のときに比較できる.この要請を満たさない測定は結晶物理学的な価値がない.
   結晶の対称群$$ G_{k} $$ を知れば,(特定な方位に沿っての)物理特性の測定範囲を,対称的に独立な立体角内「訳注:非対称要素」に限定できる.測定方位の選択は,対称図形を,対称的に独立なあるいは対称的に同価な領域に分割する数は,対称群の位数に等しいという理論に基づきなされる.例えば,立方体,六角形プリズムでは,そのような領域は,それぞれ1/48,1/24である(図218).結晶の特性が,対称的に独立な球面三角形の立体角内で測定されれば,この角外の方向での測定は必要がない.これは,異方性(すなわち測定の方向で物理特性が異なる)の記述のために必要な測定の数を,大いに減じる.しかし,まだこれで全てではない.
   結晶の対称群(物理量の対称群に密接に結び付いている)は,各特性を規定する独立な定数の数を決定できる.言いかえれば,結晶の注目した特性を完全に規定するために必要となる(異なる方向の)いくつの測定が必要かを,述べることが出来る.測定の数は,考察中の特性の性質と対応する物理量の変換を支配する法則に依存する.