古典結晶群3★

投稿日時: 2022/11/04 システム管理者

このエッシャー作品は,色の区別をせず(純幾何空間的)に見れば,1つのトカゲのモチーフで埋め尽くされている.トカゲの左手の集まっている点には6回回転軸がある.
色を区別する超幾何空間なら,その点には,3色の巡回置換の3回軸と色を保存する2回回転軸が共存する(これを$$6^{(3)}$$と表示).

格子は単純な3角格子である.したがって,色の見分けができなければ古典群$$P6$$,色の見分けができれば$$P6^{(3)}$$の3色群である.

空間群$$G$$には正規部分群として並進群$$H$$が含まれる.$$H$$に関するラグランジュ展開の各剰余類を図解する.並進群$$H$$を法として同値とは,無限に繰り返す格子点に散らばっているトカゲを1つの格子点に還元することであり,格子点のまわりに6匹のトカゲが代表元として存在し,$$\{1,6,6^{2},\dots,6^{5}\}=G^*$$に同型な群をなす.並進群$$H$$の剰余類展開は,代表元の6種類のトカゲをそれぞれ格子点に配した6種類の格子として図解できる.


2次元の格子を,対称性で分類すると5種類(2次元ブラベー格子).2次元には,互いに独立な並進ベクトル2つがとれるので,この2つの並進ベクトルの組を対称性で分類すると5種類であることが理解できる.格子点間の垂直2等分線で囲まれる図形を「ディリクレ胞」(あるいは,ウィグナー=ザイツ胞)というが,「ディリクレ胞」の形で分類したという見方もできる.
空間群には,正規部分群として並進群(格子)が含まれているので,並進群を法として準同型写像をすれば,結晶点群に還元できる.逆に,並進群を格子と矛盾しない結晶点群で拡大して空間群が得られる.

結晶点群とは,周期性(結晶空間)と両立する点群のことで,回転対称性に,5回軸,および7回軸以上は存在しない.

空間群の作り方の一例として,直方(長方形)単純格子の格子点に,点群$$2mm$$の有限図形を配置して,空間群$$P2mm$$が得られることを図示した.
$$P2mm$$は共形群である.点群$$2mm$$の鏡映操作$$m$$を,映進操作$$g$$で置き換えることを考える.映進操作$$g$$とは,鏡映と鏡映面に沿った周期$$T/2$$の並進を組み合わせた操作のことである.したがって,映進を2回繰り返すと,$$g^{2}=T$$となり,格子分だけの移動になる.結晶格子は無限に繰り返すので,並進周期だけ移動した点はすべて同値である.そこで,映進操作,$$ g^{2}=1(\textrm{mod}T) $$は,周期的空間の対称操作となる.

共型群$$P2mm$$から非共型群$$P2mg,P2gg$$が導ける.映進操作$$g$$は,非対称要素(モチーフ)を隣の胞に移動させてしまうが,格子を法として同値とすれば,単位胞内に(還元)引き戻せる.

群$$G$$はその部分群$$H$$に関して剰余類の直和に展開(ラグランジュ展開)できる.特に,$$H$$が正規部分群である場合が重要で,剰余類は$$H$$を法として群(商群)をなす.

空間群の拡大では,正規部分群は非常に重要な役割を演ずる.$$H$$が$$G$$の正規部分群であるとき,$$H$$に関する剰余類は,$$H$$を法として商群$$G/H$$をなす.
逆に,$$\{a_{1}, a_{2}, \dots, a_{r }\}=G^{*}$$とし,群$$H$$を群$$G^*$$で拡大して群$$G$$を得る.
正規部分群$$H$$を群$$G^*$$で拡大して$$G$$が得られるのだが,$$G^*$$も正規部分群である場合は直積;$$G^*$$が非正規の部分群である場合には半直積;$$G^*$$が$$H$$を法として群となる(モジュラー群)の場合には条件積;で表現する.
19世紀末の3次元結晶空間群230種の数え上げは,20世紀結晶構造解析の基礎となる.古典群に関しての概観はここで一段落とする.