結晶群の一般化(3)

投稿日時: 2022/05/04 システム管理者

1.結晶空間群の発見
2.群拡大理論に基づいた空間群の構成
3.群の一般化.特性の対称性
4.対称性の重ね合わせ.対称化と非対称化


3次元結晶群(点群,あるいは,空間群)は,3次元の幾何空間に作用する対称操作が作る群でした.一般化の第一歩は,幾何学的次元とは異なる何らかの超幾何学的な特性(代表して「色」と呼ぶ)空間を付加することで得られました.A.V.シュブニコフは,+/-の2値をとれる特性を,3次元幾何空間の各点に付与しました.これが,反対称群(シュブニコフ群;黒白群)であり,多値の特性を各点に付与したものが色付き群(ベーロフ群;多色群)であります.
もし,付加する特性次元が3次元空間と同様な幾何学的次元であれば,4次元結晶群になります.

シュブニコフ(反対称;黒-白)Ш群
ベーロフ(多色)Б群
超幾何学的特性(色と呼ぶ)を空間に付与する

色付きの空間構造を色の見分けができない眼鏡を通して見れば,すべての点が同一色に見え空間の幾何学的構造だけが見えます.このことから,色付き構造を記述する群$${Б^{(p) } }$$(色特性$${p}$$色)は,同型な結晶群 $${G \cong Б^{(p) } }$$ があることになります.$${p}$$色の色付き構造のうちで同色の同価点系が作る$${G}$$の部分群を$$ {G^{* } } $$とすると,色特性の数$${p}$$は,部分群$${G^{* } }$$の群$${G}$$に対する指数(それぞれの群の位数の比で整数)になります:$${p=(G^{*}:G)}$$

$${G^{* } }$$が$${G}$$の指数$${p}$$の正規部分群であるなら,$${G}$$に同型な$${p}$$色の色付き群$${Б^{(p) } }$$は,群$${G^{* } }$$を色置換群$${P}$$で拡大した正規拡大$${Б^{(p)}=G^{*}\otimes P}$$として得られます.

■ シュブニコフ結晶空間群Шは,Шと同型な古典空間群$${G}$$の指数2の部分群$${G^{* } }$$(注:指数2の部分群は常に正規部分群)を,位数2の反対称演算の群,
$$ m'=\{1,m'\}, 2'=\{1,2'\}, \bar{1}'=\{1, \bar{1}'\}, 4'=\{1,4'(\textrm{mod}2)\} $$,あるいは,反対称格子や,反並進を含む並進群$$ \tau'(\textrm{mod}2 \tau)= \{1, \tau'\} $$で拡大して得られます.

■ ベーロフ$${Б^{(p) } }$$結晶空間群
$${p}$$色の色付き3次元結晶空間の対称性に関します.$${Б^{(p) } }$$群は,色の見分けの出来ないフィルターを通して見れば1色に見えますから,これに同型な何等かの古典群Φ:$${Φ\congБ^{(p) } }$$があり,Φの正規部分群で,指数$${p}$$のものを$${G^{* } }$$とすると,$${Φ/G^{* } }$$に同型な,色置換群$${P}$$を用いて,$${Б^{(p)}=G^{*}\otimes P}$$のように正規拡大の型で$${Б^{(p) } }$$群が得られます.あるいは,以下の$${p}$$色巡回置換の並進群を用いて拡大します.
$${\tau^{(p)}(\textrm {mod}\tau)=\{ \tau^{(p)}, ( \tau^{(p)})^{2}, \cdots , (\tau^{(p)})^{p}=\tau \equiv 0(\textrm {mod}\tau) \} }$$

このような$${Б^{(p) } }$$群を標記するには,その生成群を明示しての次のように標記します:$${Φ/G^{* } }$$

Ш群や$${Б^{p } }$$群は色付きの結晶空間群を念頭に記述しましたが,色付きの結晶点群に限定して記述するのは,理解しやすい良い方法かもしれません.色巡回置換による群は,Niggli,Indenbom,Belov,Neronova(1959,1960)が,古典群の正規部分群を含むものはWittke(1962)が研究しました.色付き群の分解表現は,Shubunikov,Koptsikが導き,73種類のWittke-Garrido群$${G_{WG}^{(p)}=G^{(p)*}・G^{* } }$$と,これに同型なVan der Waerden-Burckhardt群$${G_{WB}^{(p)}=G^{(p_{1})*}・G^{(p_{2})* } }$$を導きました.全$${G_{WB}^{(p) } }$$と$${G_{WG}^{(p) } }$$の数え上げは,Koptsikの下で,Kuzhukeev(1972)の修士論文でなされました.
部分群$${G^{(p_{2})*}\subset G_{WG}^{(p) } }$$は,最後に決まった色を保存し,群$${G_{WG}^{(p)* } }$$の中の色置換の型$${G^{(p)* } }$$は始めの点の採り方に依存します.

色付き空間群の導出は,1969年ザモルザエフにより始められ,3色,4色,6色までの空間群の数え上げが行われた.色付き空間群の色の塗り替え演算が,色並進群にあるものと,色並進を含まない群とに分類でき,さらにそれぞれに共型なものと非共型なものに分類できる.色空間の対称操作は幾何的結晶空間の対称操作と連動するために,許される色数$${p}$$は制限があり,最大で48色,以下24,16,12,8,6,4,3色です.正規拡大による色付き空間群の数え上げは完了しました.

■演習
2次元2色(黒白)結晶点群を求める


2次元結晶点群10種
2次元結晶点群から導ける黒白群11種.赤の記号は反対称演算成分を持つ.