▲群論基礎テキスト2

投稿日時: 2021/12/16 システム管理者

[定義]剰余類 
群$$G$$とその部分群$$H$$があるとき,
$$a \in G$$に対し,$$aH=\left\{ ah;h \in H \right\} $$を,$$H$$に関する$$a$$の左剰余類という.
$$H$$が正規部分群であれば,左剰余類と右剰余類は一致する:$$aH=Ha$$
群$$G$$がAbel群なら,そのすべての部分群は正規部分群であり,左剰余類と右剰余類は一致する.
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[定義]同値関係
群$$G$$と部分群$$H$$があり,$$a, b \in G$$のとき,$$a^{-1}b \in H$$ならば,$$a,b$$は同値$$a$$~$$b$$とする.
この同値関係で,類別を行ったものが,左剰余類$$b \in aH$$である.
集合$$M$$の元に,同値関係$$ \sim $$があれば,$$M$$の同値類別$$M/ \sim $$(直和分割)がただ一つの方法でできる.
同値関係とは,次の同値律を満たす関係である:

1° 反射律,$$a \sim a$$
2° 対称律,$$a \sim b$$ → $$b \sim a$$
3° 推移律,$$a \sim b$$,かつ,$$b \sim c$$ → $$a \sim c$$
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[定理1] 
$$a, b \in G$$のとき,群$$G$$の部分群$$H$$の左剰余類が$$aH=bH$$であることと,$$a^{-1}b \in H$$とは同値である.
(証明)
$$b \in bH=aH$$であるから,$$a^{-1}b \in H$$
逆に,$$a^{-1}b=h_{1} \in H$$であるなら,$$b=ah_{1} \in aH$$
もし,$$^{ \forall }b' \in bH$$をとれば,$$b'=bh$$となる$$^{ \exists }h \in H$$がある.
ゆえに,$$b'=ah_{1}h \in aH$$である.従って,$$bH \subset aH$$.
$$H$$は群であるから,$$a^{-1}b \in H$$なら,$$\left( a^{-1}b \right) ^{-1}=b^{-1}a \in H$$である.
ゆえに,$$^{ \exists }h_{1} \in H$$が存在し,$$b^{-1}a=h_{1}$$,$$a=bh_{1}$$.
もし,$$^{ \forall }a' \in aH$$をとれば,$$a'=ah$$となる$$^{ \exists }h \in H$$がある.
ゆえに,$$a'=bh_{1}h \in bH$$である.従って,$$aH \subset bH$$.
$$aH=bH$$が結論される.

[定理2]
$$aH \neq bH$$ならば,$$aH \cap bH= \phi $$
(証明)
$$c \in aH \cap bH$$とする.
$$c=ah_{1}=bh_{2}$$となる適当な$$^{ \exists }h_{1}, ^{ \exists }h_{2} \in H$$が存在する.ゆえに,$$a^{-1}b=h_{1}h_{2}^{-1}$$
$$H$$は群であるから,$$a^{-1}b \in H$$となる.定理1により,$$aH=bH$$.

[定理3]
$$G=a_{1}H \cup a_{2}H \cup \cdots \cdots \cup a_{n}H$$, $$^{ \forall }a_{i} \in G$$, ($$i=1,2, \cdots ,n$$)$$n$$は$$G$$の位数.
しかし,適当な$$a_{i}$$を$$r$$個選び,$$r$$個の直和で表現できる.$$r$$は一意に決まる. 
$$G=a_{1}H+a_{2}H+ \cdots \cdots +a_{r}H$$

[演習] 
■定理3で,直和分解の数$$r$$は一意であることを証明せよ.
■$$G=Ha_{1}+Ha_{2}+ \cdots \cdots +Ha_{r}$$ならば,$$G=a_{1}^{-1}H+a_{2}^{-1}H+ \cdots \cdots +a_{r}^{-1}H$$であることを証明せよ.
(証明)
$$^{ \forall }c \in G$$をとると,$$^{ \exists }a_{i}$$があり,$$c^{-1} \in Ha_{i}$$.すなわち,$$^{ \exists }h_{1}$$があり,$$c^{-1}=h_{1}a_{i}$$
$$c=a_{i}^{-1}h_{1}^{-1} \in a_{i}^{-1}H$$. ゆえに,このような$$r$$個の剰余類で表現できる.
次に,$$Ha_{i} \cap Ha_{j}= \phi $$ → $$a_{i}^{-1}H \cap a_{j}^{-1}H= \phi $$を証明する.
対偶の証明:
$$a_{i}^{-1}H \cap a_{j}^{-1} \neq \phi $$ならば,定理2により,$$a_{i}^{-1}H=a_{j}^{-1}H$$と完全に重なる.
$$ \forall c \in a^{-1}_{i}H=a_{j}^{-1}H$$なので,$$c=a_{i}^{-1}h_{3}=a_{j}^{-1}h_{4}$$と表現でき,$$c^{-1}=h_{3}^{-1}a_{i}=h^{-1}_{4}a_{j}$$
ゆえに,$$c^{-1} \in Ha_{i}=Ha_{j}$$

[定義]部分群の指数
群$$G$$の位数を$$g$$,部分群$$H$$の位数を$$h$$とする.$$g/h=r$$.(直和分解の剰余類の数)
部分群$$H$$の位数は群$$G$$の位数の約数である[Lagrangeの定理].
$$r$$を部分群$$H$$の群$$G$$における指数という.

[定義] 正規部分群
$$^{ \forall }a \in G$$に対して,$$aHa^{-1}=H$$(あるいは,$$aH=Ha$$)であるとき,部分群$$H$$は正規であるという.$$H$$が群$$G$$の正規部分群であることを,$$G \vartriangleright H$$と標記する.
・群$$G$$がAbel群ならば,すべての部分群は正規である.
[定義]2つの自明な正規部分群(自分自身および,$$\left\{ e \right\} $$)以外に,正規部分群を持たない群を,「単純群」という.

2つの左剰余類の積に関して,$$aH \cdot bH=abH$$が成立する.
[演習]剰余類の代表元が異なっても,$$aH=a'H, bH=b'H$$ → $$abH=a'b'H$$が成立する.
(証明)
$$abH=a(bH)=a(b'H)=aHb'=a'Hb'=a'b'H$$
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[定義]剰余群(商群)factor group $$G/H$$
$$G \vartriangleright H$$のときに,剰余類全体は,$$H$$を法とする群$$G/H$$をなす.
[演習]$$G/H$$は群をなすこと(以下の条件)を確認せよ.
1°$$\left( aH \cdot bH \right) \cdot cH=aH \cdot \left( bH \cdot cH \right) $$
2°$$eH=H$$が単位元
3°$$aH$$の逆元は,$$a^{-1}H$$

[定義]中心化群
群$$G$$の部分群$$S$$があり,$$S$$のすべての元と可換な$$G$$の元の集合を$$Z(S)$$と標記し,$$S$$の中心化群という.$$S=G$$のときは,$$Z(G)$$を$$G$$の中心という.$$Z(G)$$は可換群である.
[定理]$$Z(S)$$は$$G$$の部分群である.
(証明)
$$x, y \in Z(S)$$ $$\Rightarrow$$ $$xy^{-1} \in Z(S)$$を証明する.
$$^{ \forall }s \in S$$(部分群)に対して,$$xs=sx$$と$$s^{-1}y=ys^{-1}$$すなわち,$$y^{-1}s=sy^{-1}$$から出発する.
$$xy^{-1}s=xsy^{-1}=sxy^{-1}$$,ゆえに,$$xy^{-1} \in Z(S)$$.

[定義]共役部分群,共役元
群$$G$$の部分群$$H$$があり,$$^{ \exists }a \in G$$に対して得られる$$a^{-1}Ha$$を$$H$$の共役部分群という.
[演習]$$H$$が部分群であるとき,$$a^{-1}Ha$$は群となることを証明せよ.
(証明) $$a^{-1}h_{1}a, a^{-1}h_{2}a \in a^{-1}Ha$$のときに,
$$\left( a^{-1}h_{1}a \right) \left( a^{-1}h_{2}a \right) ^{-1}=a^{-1}h_{1}aa^{-1}h_{2}^{-1}a=a^{-1}h_{1}h_{2}a \in a^{-1}Ha$$
単位元$$(a^{-1}h_{1}a)(a^{-1}ea)=a^{-1}h_{1}a$$,逆元$$(a^{-1}h_{1}a)(a^{-1}h_{1}^{-1}a)=a^{1}ea$$も存在することは,$$H$$が群であるから当然である.

[定義]共役集合

群$$G$$の部分集合$$S$$に対して,$$a \in G$$で変形した$$S$$の共役集合$$a^{-1}Sa$$が,自分自身に等しい$$a^{-1}Sa=S$$(自己共役のとき),$$G$$の元$$a$$からなる集合$$N(S)=\left\{ a \in G:a^{-1}Sa=S \right\} $$は,$$G$$の部分群をなす.
[演習]$$S$$の自己共役集合を作る$$N(S)$$は群をなすことを証明せよ.
(証明)
$$a \in N(S)$$ならば,$$a^{-1} \in N(S)$$となる.従って,$$a, b \in N(S)$$なら,$$ab^{-1} \in N(S)$$となり群の条件を満たす.

[定義]正規化群
$$H$$が$$G$$の部分群であるとき,$$H$$の自己同型を作る$$N(H)$$を正規化群[すべての代表元系の作る群]という.

正規化群$$N(H)$$のなかで,$$H$$は正規部分群である:$$N(H) \vartriangleright H$$と言えるか.

 これを証明せよ.