非ユークリッド幾何(その2)エッシャーの不思議な円盤世界

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数学月間SGK通信 [2014.05.30] No.010
<<数学と社会の架け橋=数学月間>>
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円盤の中の不思議な世界(エッシャーの極限としての円)
双曲幾何空間のポアンカレ・モデル

■ポアンカレ万華鏡
1951年の国際数学会でエッシャーはコクセターに出会いました.その後1958年に
コクセターはFig.2を掲載した論文をエッシャーに送りそれがことの始まりです.

Fig.1は正6角形タイルが頂点で4つ出会うように平面を埋め尽くしている世界で,
シュレーフリの記号で{6,4}と表記されます.
これらの円盤内は双曲幾何の世界(ポアンカレ・モデル)なので,
円盤内では,正6角形タイルはすべて同じ大きさなのです.
(円盤のフチに近づけば近ずくほど,どんどん縮小されるので,我々から見たら
有限な円盤内なのに,無限個の正6角形タイルが敷き詰められています)
円盤内では,Fig.1に描かれているような円盤のフチに直交する円弧が直線です.

Fig.1
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/53/15820253/img_2?1401440063
Fig.2
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/53/15820253/img_3?1401440063

Fig.1の正6角形タイルを12個の直角3角形に分割したものがFig.2です.
この直角三角形の内角は(π/6, π/4, π/2)で,この直角3角形を簡単に(6,4,2)と表記することにします.
この3角形の内角の和は π/6+π/4+π/2=11π/12<πですが,
ここは双曲幾何の世界ですからπより小さくなるのは当然です.
(6,4,2)直角3角形の各辺を鏡映面として万華鏡を作ると,
Fig.2のような市松模様が得られます(鏡映操作により白黒が反転する).
私はこれをポアンカレ万華鏡と呼んでいます.
実際にこの万華鏡を作製しましたが,円弧面による反射は原理的に収差があり,
数学の反転操作とは異なります.あまり美しい万華鏡にはなりません.

■コクセターとエッシャー
さて,コクセターからFig.2の分割図を知らされたエッシャーは,
早速「極限としての円」シリーズの制作を始めます.
エッシャーは{6,6}正則分割を用いた直線魚の作品などといろいろ工夫を重ね,
「極限としての円」のシリーズIIIで,{8,3}正則分割を用い完成します(Fig.3).

Fig.3
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/53/15820253/img_0?1401440063
Fig.4
http://blogs.c.yimg.jp/res/blog-09-2d/tanidr/folder/545271/53/15820253/img_1?1401440063

Fig.3に描かれている魚が泳ぐ流れの白い線は直線のように見えますが,
実は違います.円盤のフチと80°で交わっています.
直線となる円盤のフチと90°で交わる円弧はFig.4に描きこんだ黒い線です.
そしてエッシャーの作品は,{8,3}正則分割を基礎にしていることがわかります.
{8,3}正則分割は,正8角形のタイルが頂点で3つ出会うような敷き詰めですが.
エッシャーの作品のトリックは,正8角形のタイルを作る直線
(絵には顕には描かれていない)と,魚の流れに沿った線を正確に使い分けて
見事な印象を与えている所です.
この解説は,1979年のコクセターの以下の論文で指摘されています.
Coxeter, H. S. M. (1979), "The non-Euclidean symmetry of Escher's picture
'Circle Limit III'", Leonardo 12: 19-25, JSTOR 1574078.