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ベイズの定理と新型コロナウイルスPCR検査

投稿日時: 2020/04/28 システム管理者

 

 

 

 

 

 


 
私は3月24,26日のメルマガまぐまぐ(311,312号)で以下の内容の発表をしました.-----
3月21日の厚労省の公表値を用いて,罹患率=発症患者/PCR検査数と定義すると,罹患率は,約5%になります.しかし,PCR検査の,感度と特異性(酒井健司,朝日デジタル)の情報を入れてベイズ推定した罹患率は5.9%になりました.この推定値の増加は,主としてPCR検査感度に原因があり,実際の罹患者を取りこぼすためです.(注)この数値は,PCR検査を受けた限定されたグループをサンプルとしているために,一般の集団に対しては少し割り引いた数値になるでしょう.-----
今日,PCR検査数も増加したので4月23日厚労省のデータを用いて,再計算をしてみました.どのように変わったでしょうか?
ただし,PCR検査数が増加したといっても(多少はPCR検査を受ける条件の緩和があるかもしれませんが),陽性の確率が高いサンプル集団について検査が行われている状況は変わりません.
カバーの図を見てください.ここで推定する数値はあくまでもサンプル集団に関するもので,一般集団に対してはいくらか割り引いた数字になるでしょう.
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■条件付き確率についての「ベイズの定理」とは次のようなものです.
p(Y|X)p(X)=p(X∩Y)=p(X|Y)p(Y)
記号の意味は例えば以下の様です.
p(X)  Xが起こる確率
p(Y|X) Xが起こった後でYが起こる確率
p(X∩Y) XかつYが起こる確率
ベイズの定理は,X(原因)が起きた後でY(結果)が起きる確率p(Y|X)と,XとYを入れ替えた確率p(X|Y)を結び付ける定理です.
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■新型コロナウイルスに対するPCR検査数は,厚労省の発表https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11012.html で,4月23日現在,
135,983人になりました(1月前の3月21日の数字の7.5倍です).
PCR検査数    135,983
PCR検査陽性者数   11,919
陽性者のうち発症患者(陽性者∩発症患者)7,315人
発症患者/PCR検査数=罹患率 と仮の罹患率を定義すると,罹患率は約5.4%です.
陽性率=陽性者数/PCR検査数=0.088 ,陰性率=0.912 と定義できます.

■PCR検査の精度
新型コロナ検査、どれくらい正確? 感度と特異度の意味(酒井健司,朝日デジタル)に基づき,次のように仮定します.PCR検査の感度というのは,罹患者がPCR検査で陽性+と正しく判定される確率のことで,あまり大きくなく0.7, 罹患者でもPCR検査が陰性-となる(偽陰性)の確率は0.3程度.
検査の特異性により,非罹患者が+(疑陽性)と判定される確率は0.01だそうです.

■これらの仮定の下で,以下の2つを推定しましょう.ただし,ベイズの定理を使います.
(1)PCR検査で陽性と判定されたとき,罹患者である確率を求めなさい.
p(罹患|+)=p(+|罹患)p(罹患)/p(+)=0.7×0.054/(0.054×0.7+0.946×0.01)=0.80

+(陽性)でも検査感度のせいで罹患者をとりこぼすことが多い.また,非罹患者の割合が大きいので偽陽性の数も無視できない.この2つの原因が,+判定でも罹患者である確率を80%(前回79%)に下げている.

(2)罹患率を推定しなさい.
p(罹患|−)=p(−|罹患)p(罹患)/p(−)=0.3×0.054/(0.054×0.3+0.946×0.99)=0.017
-(陰性)と判定されたものの中に見逃された患者である可能性は1.7%(前回1.6%)ほどある.

従って,サンプル集団で推定される罹患率は0.088×0.80+0.912×0.017=0.086
すなわち,8.6%(前回5.9%)と推定できます.