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ステルス技術の父ウフィムツェフ

投稿日時: 2020/12/24 システム管理者

 

 

 

 

 

 


「回折の物理理論におけるエッジ波の方法」
Konstantin Bobrov, "Popular Mechanics" No. 9,2020 に,
「ロシアが起源の重要な発見と発明」という記事が載っていました.
ここには,医学・生物学,物理学,材料デバイスなどの現在発展し実用化されている科学技術で,ロシア発祥の研究が12例紹介されています.
その中で私の興味を惹いたものの第一位は,ステルス・テクノロジー(1962)の起源です.そこで,少し調べてみました.
ステルス戦闘機の技術は軍事研究ですが,1962年のUfimtevの論文は「回折の物理理論におけるエッジ波の方法」ウフィムツェフ(1962年出版)という,基礎的な電磁波回折散乱方程式で,X線散乱の論文と同程度にたいへん地味な装いです.
この論文の著者の,Peter Yakovlevich Ufimtsev(1931年生まれ),電波工学者,物理学者,数学者です.彼はさまざまな形状の航空機に対するレーダビームの散乱面積を計算できる方程式を作りました.散乱面積(レーダー反射断面積RCS)とはレーダ反射が作る飛行機の像がどのくらいの大きさかというもので,現在最新鋭のステルス機F-35などでは,野球ボールや雀位の大きさと言います.1960年代初頭に、彼が開発したエッジ波法は、推測がまだ多かったことと,散乱面積を小さくする構造は、空気力学の原理と両立せず,戦闘機の運動性能を低下させるので実用性はないと考えられていました.

したがって、Ufimtsevの論文はソ連では重要とは見なされず,世界に公開されました.この論文に注目したのは,デニスDenis Overholzerです.
1970年代初頭にロッキード社のオフィスで働いていた若いデニスは,ロシア語ができたので,ソビエト連邦で出版された技術出版物を調べることが仕事でした.デニスは高度な工学教育を受けていたため,Peter Ufimtsevの科学的研究に興味を持ち,深く掘り下げ英語に翻訳しました.
「回折の物理理論におけるエッジ波の方法」ウフィムツェフ(1962年出版)

デニスはこの論文の重要性を上級管理職に訴えましたが取り上げられず,その後,デニスはエンジニアリングスタッフに直接渡しました.その分野の真の専門家であるエンジニアリングスタッフは,Ufimtsevの仕事の重要性を理解しました.

Ufimtsevによって発見されたアルゴリズムは,ステルス技術を使用して製造された最初の航空機であるF-117ナイトホークの設計に使用され,これは1981年に離陸しました.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Ufimtsevの論文は,防空レーダーから飛行機を事実上見えなくする方法を説明しています.翻訳者のデニス・オーバーホルツァーは,技術的に有能な人物で米国の偉大な愛国者でありました.彼は,Ufimtsevの仕事がアメリカ空軍に前例のない機会をもたらすことにすぐ気づきました.ソビエト連邦は,この論文を秘密にしなかったので,アメリカは完全に合法的に技術を手に入れたのです.

ソビエト連邦がステルス技術の利点を認識したのは,米国がすでにナイトホーク航空機を完全に使用していた1980年代の終わりになってからでしたが,それはすでに手遅れでした.さらに,ミハイル・ゴルバチョフの時代の冷戦雪解けになり,ステルス機は不要になりました.

1990年はソビエト連邦の存在の最後の年でした.Peter Yakovlevich Ufimtsevにとっても1990年は転機で,当時ソビエト連邦科学アカデミーの無線電子工学研究所で働いていた彼は,カリフォルニア大学の客員教授として,アメリカ合衆国に招待を受けました.

 

彼がアメリカに到着したとき,デニス・オーバーホルツァーは彼に会いに来ました.しかし,Ufimtsevは,ロッキードの競合-ノースロップグラマンとの契約になり,アメリカのB-2爆撃機の戦闘能力の改善に取り組み始めました。

Peter Yakovlevich Ufimtsevの生涯と運命,そしてステルス技術の歴史全体は,科学者に対する国家の不注意がもたらす深刻な結果の典型的な例です.1990年代,ソビエト後のロシアでは「頭脳流出」が深刻な問題となりました.何万人もの有望な科学者,エンジニア,技術者が,お金だけでなく,より注意深く敬意を払う態度を求めてロシアを去りました.

残念ながら,この問題は今のところ解決されていません.国内科学への資金提供には多くの要望が残されています.そのため,若い科学者たちは西側に,そして今では東側にも向けて出発しています.米国,そして中国にも,彼らの知識は需要があります.

以下のサイトを参照しました
https://en.topwar.ru/162805-russkij-stels-kto-razrabotal-tehnologiju-samoleta-nevidimki.html>


補足
レーダーの仕組み:
電波が機体に当たり、機体表面に誘導電流が発生する.
誘導電流から電波が発生する(これは反射波となる)
見えなくするには:
電波が来た方向へ電波を反射しなければ良い(あらぬ方向へ受け流す).
金属は電波を反射し易いので,電波を反射し難い・吸収する物質に換える.
厚さ1/4波長の表面と裏面から反射させて,反射波同士を打ち消し合わせることも可能である.
ステルス機の形は多面体を思わせるが,どちらから見ても来た方向に電波を戻さず横に受け流すにはこのような形が良いのだろう.

光学的ステルス
可視光で見えなくなる隠れ蓑のような衝立が2019.12にカナダの企業から発表されたのを覚えている方もおられるだろう.可視光に対するステルスも研究されている.